本年度は、生産性格差が最も大きくなるグローバル産業のうち、特に主要企業数が少ない二つの産業(ゲーム産業、半導体露光装置産業)を取り上げ、トップ企業による企業買収に対する独占禁止法規制のあり方を検討した。既に高い市場シェアを持つグローバル・トップ企業による買収は、水平合併では規制当局の承認が得られにくいため、おのずと垂直型・混合型企業結合となる。ゲーム産業では、産業史上最高金額での買収となったMicrosoftによるActivision Blizzardの買収を素材とした。本件統合は英国、EU、米国でも審査されており、日本の公正取引委員会による審査結果と重要な相違点が認められたため、比較分析を行った(学会発表)。ゲーム産業は、コンテンツの独占配信が特徴的であるため、two-sided marketsにおける排他的取引の経済分析をサーベイし、それらの分析結果を本件統合にあてはめて分析した。半導体産業については、2012年の事案であるが、ASMLによるCymerの買収を取り上げ、垂直型企業結合において我が国では定番の問題解消措置となっている行動的措置の再検討を行った。その前提として、垂直型企業結合の経済分析をサーベイすると共に、理論モデル分析も独自に行った。川上・川下共に複占の差別化財市場においてベルトラン競争をするモデルで、投入物閉鎖後の川下市場の均衡価格等の変化を調べた。垂直統合企業及び競争者の両方の小売価格が上昇しやすいのは、川下商品・川上商品ともに同質的な場合であることを確かめることができた。また、川上商品の製造費用の最終製品に占める比率が小さい場合の方が、競争者との費用コスト差に関わらず投入物閉鎖が利益になることが導かれた。
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