研究課題/領域番号 |
20K01344
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 和治 東北大学, 法学研究科, 准教授 (20345250)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 刑事免責 / 派生使用免責 / 違法収集証拠排除法則 / 自白法則 |
研究実績の概要 |
2020年度は,申請時に提出した研究計画に従い,派生証拠の証拠能力という観点から,不任意自白及び違法収集証拠の証拠能力が争われた判例・裁判例の収集・分析を行った。とりわけ,今年度は,違法収集証拠(自白も含む)に関する約300件の事例群につき,第1次証拠と派生証拠の関係に応じた4類型(研究計画書に記載したもの)に即して検討を加えた。 その成果の全体については,いまだ公刊に至っていないが,本研究課題と密接に関連する問題に関わるものとして,2016年の刑訴法改正により導入された刑事免責制度につき,「刑事免責」法学教室483号20-24頁(2020年)を公刊した。 現行刑訴法に導入された刑事免責制度は,訴追側証人である共犯者の一部に対し,いわゆる派生使用免責(当該証人が行う証言それ自体及びその証言から派生するかたちで獲得された証拠の証拠使用を禁止するもの)を付与し,被告人である他の共犯者の罪責を立証するための証言を強制する制度である。 前記の論考では,刑事免責制度を巡る理論的な問題状況を整理したうえで,同制度が初めて適用された事例について検討を加えた。この事例では,免責を付与された共犯者証人は,被告人の公判において,「覚えていない」旨の証言を繰り返して詳細な証言を回避し,刑事免責制度が必ずしも十分に機能しなかったが,前記の論考では,その理由として,証人自身が既に起訴されており(証人自身の有罪を立証しうる証拠が既に多数収集されており),証言を行えば行うほど証拠使用が禁止される派生証拠の範囲が広がることにより,自身が有罪とされる余地が縮減するという構造(立案担当者が構想していたもの)が生じていなかったという事情を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月から本格化したコロナ禍に伴い,Zoomによるオンライン授業の構築に追われるなど,大学での教育業務に時間を多くのとられ,研究に充てる時間が減少した。 また,刑法学会の全国大会(2020年5月に予定されていたもの)を始め,多くの研究会が中止・延期となるなど,同分野の研究者との学術的な意見交換の機会も減少した。 さらに,事件記録が保管されている各地方検察庁への出張等も見合わせたことから,資料の収集作業にも遅れが生じている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も,引き続き,申請時に提出した研究計画に従い,研究を進めてゆく予定である。2020年度後半から2021年度にかけての研究成果については,2021年7月の刑事判例研究会(東北大学)や,2022年3月の刑法学会仙台部会において,報告を行う予定である。 なお,2021年度は,現段階(2021年4月)において,研究課題に関連する確定事件の記録の閲覧のため,さしあたり,東京地方検察庁,大阪地方検察庁,千葉地方検察庁への出張(数日~1週間程度の滞在を伴うもの)を予定しているが,今後のコロナ禍の状況によっては,出張が困難になる可能性もあるため,適宜,予定を調整しつつ研究を進めてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実際の使用額が所要額を越えないように支出を調整したため。
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