研究課題/領域番号 |
20K01517
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
芝井 清久 統計数理研究所, データ科学研究系, 特任助教 (90768467)
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研究分担者 |
向 和歌奈 亜細亜大学, 国際関係学部, 講師 (00724379)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核軍縮 / IAEA査察 / 核抑止 / 軍備管理 |
研究実績の概要 |
本研究は「核軍縮・核軍備管理・核廃絶論共通の目的である核戦争の防止を核兵器の削減という手段を用いてどのように実現できるのか」を根本的な学術的「問い」とし、IAEAが果たすことができる特別な役割にその解答を見いだすものである。北朝鮮の核能力の向上、イランの核濃縮の推進、さらにはイギリスが核弾頭の上限引き上げを決定するなど、冷戦終結後に続いてきた核軍縮の流れに逆行する事態が相次いでいる。そのような国際社会の現状を打開するために、核軍縮を推進するための手法を構築することで国際社会への貢献を目指す。 具体的には核軍縮政策におけるIAEA査察の効果を理論的・実証的に検証し、査察の役割を高める条件を模索することである。特に、IAEAは中立性と国際的影響力を持った政治主体であって核軍縮・軍備管理・核廃絶において一般に考えられているよりも多くの役割を担えることを明らかにすること、違反行為の効果を高めるための査察システムの制度改善の方向性を示すことである。 本研究の独自な点はIAEAを国際政治の主体として捉えるとともにIAEA査察が持つ政治的役割に着目したことにある。核軍縮に必要不可欠な存在でありながらIAEAを能動的に活動する主体として捉えた研究はほとんど存在せず、固定的な政策ツールとしてしか扱われてこなかったからである。核軍縮における仲裁者の役割をIAEAが担うことが効果を発揮できることを明らかにし、ツールではなくアクターとしての重要性とその具体的な役割を示すことが本研究の独自性である。この視点に基づくならば、IAEA独自のツールである査察の効果を強固にできれば核軍縮を一層推進させることができる。そこで本研究ではIAEA査察による「違反行為への抑止効果」という政治的影響力の確立を目指す。その効果をゲーム・モデルによって論理的に明らかにし、現実でも発揮できる査察システムを提案することが本研究の持つ創造性である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は科研費研究の一年目であり、分析のための情報収集と理論枠組み・研究概念の精緻化を主たる目標とした。 まず核軍縮・軍備管理・核廃絶の議論の本質を整理した。一般に軍縮・軍備管理のようにひとまとめにされがちな核軍縮と核軍備管理には明確な違いがあること、そのうえで核軍縮とは実は必ず核戦争の防止に貢献する政策ではないこと、そのためには満たさなければならない条件があることを明らかにした。また、市民運動の目的と核廃絶主張の論理をまとめ、核戦争防止という目的と矛盾する主張を内包する傾向があることを示し、それらの議論を踏まえたうえで、核戦争の防止という目的を達成するための核軍縮の推進方法を考案することの重要性を明確にした。 違反行為の抑止・検出を確実に実現できる査察システムの構築を動型ベイズ・モデルを用いて構築中である。リソースの限られたIAEAが多くの加盟国を効率的に査察して違反を抑止・検出することの困難さを解決するための理論モデルである。これを基本モデルから機械学習モデルにまで発展させてシミュレーションを実施できるようにすることが今後の目標である。 情報の秘匿性が強いIAEA査察の具体的内容を把握するための情報情報収集をIAEAを訪問しておこなう予定であったが、2020年度はコロナ禍のためにIAEAを訪問してインタビューと電子化されていない資料を収集することができなかった。そのためにオンライン上で入手できる資料以外を得ることはできなかった。この問題は個人では解決できないことであり、2021年度以降にIAEAを訪問できる環境に戻ったときに現地訪問を実施したい。 進捗状況としては、前述したとおりコロナ禍による移動制限が影響して、やや遅れが生じてしまっている。本年度も移動の制限は厳しいようなので、代替案を採用するなどしながら研究を推進する所存である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、査察モデルの構築とシミュレーションの実現を引き続き目標とする。また、もうひとつ数理論的な研究として、核軍縮推進とIAEA査察の効果を国際世論データによる統計分析を加える予定である。 IAEA訪問によるインタビューおよび資料収集が可能になるかどうかが極めて不透明な環境が続いているため、オンラインでも収集できる情報として、国際世論データを考えている。 核軍縮に関する世論調査はそれほど国際的に盛んなテーマではなく、唯一の戦争被爆国である日本でさえも調査が毎年のように実施されているわけではなく、詳細なデータ分析に活用できるような調査データも存在しない。 核兵器には核戦争の不安だけでなく、核抑止による安全保障や国家の地位向上といった効果や核の平和利用による高い経済効果があることから、核軍縮の推進は常に支持される政策とは言い切れない社会の側面が存在するからである。そこで、様々な立場の国家の国民が持つ核に対する意識のデータを比較分析し、核軍縮推進を国際世論に後押しさせるための独立変数を見つけ出すことを目指したい。 IAEA査察に対する評価も同様で、国際的にどれほどの評価を得ているのかははっきりしているとはいえない。現在では加盟国の国内での活動には制限のあるIAEA査察だが、世論による後押しが強くなれば、少なくとも民主主義国ではIAEA査察の権限と査察能力の強化をもたらすことが可能になる。国際社会におけるIAEA査察の評価を示すデータを集めて現状の把握とIAEA査察の評価を上昇させるための独立変数を発見したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって海外・国内の移動に大幅な制限が課せられたため、予定していたIAEA訪問によるインタビューと資料収集をおこなうことができなかった。そのため、旅費が大幅に余ることとなった。 2021年度も海外の移動は困難であることが予想されるため、使用計画としては、核軍縮とIAEA査察に関する国際調査データを取得して、本研究に活用することを予定している。
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