研究課題/領域番号 |
20K01517
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
芝井 清久 統計数理研究所, 学際統計数理研究系, 特任助教 (90768467)
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研究分担者 |
向 和歌奈 亜細亜大学, 国際関係学部, 准教授 (00724379)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 核軍縮 / IAEA査察 / 核不拡散 / 核抑止 / 世論 / 国際調査 / ゲーム理論 / 統計分析 |
研究実績の概要 |
2023年度前半は昨年度からの継続研究である北朝鮮非核化戦略におけるIAEA査察の独自の役割を研究した。通常の軍縮交渉では先手をとって条件を提示する方が有利に立てるが非核化交渉では反対に先手は不利になること、非核化のためには非核化後の保証と軍事紛争における北朝鮮の損失の大きさの明確化の双方を成り立たせることが必要であることを交渉モデルによって提示した。2023年8月に国際学会ISAで、12月に政治社会学会で研究報告をおこなった。 2023年度後半は核問題に対する世論に焦点を当て、昨年度の日本、広島・長崎、アメリカに続いて韓国、オーストラリアで世論調査をおこない、4か国の比較分析をおこなった。ロシアのウクライナ侵攻によって核戦争の危険が非常に高まっており、政府だけでなく国民の核保有支持を強まっている可能性があるからである。本研究は国家を安全保障環境と核兵器に対する立場の違いで被爆地・被爆国・非核保有国・核保有国・潜在的核保有国と分類してデータを収集し、今回は核抑止への評価、核軍縮への評価、軍事紛争の不安が国民の核保有支持・不支持に及ぼす影響と変数間の相関関係を分析した。 調査データは核抑止への肯定的評価は被爆地・被爆国が最も低く右側の分類になるほど高くなるという連続的な変化があり、核軍縮への評価はその反対に被爆地・被爆国が最も高く右側になるほど低くなるという連続的変化が明らかになった。相関分析が規範論的な核軍縮の価値観を持つのは日本人だけである可能性を示したため、さらに分析をおこなった。共分散構造分析の結果は、日本人よりは弱いもののオーストラリア人とアメリカ人にもその価値観を持つこと、そして核軍縮の規範論は核抑止への信頼と核保有支持を弱める効果があることを明らかにした。 この研究結果をまとめた投稿論文が査読中である。韓国とオーストラリアの調査結果をまとめた書籍(日・英)を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
北朝鮮非核化の交渉モデルを構築し、軍事紛争回避と非核化を両立させる炉論上の条件を明確にした。これを実際の外交政策に落とし込むことで最終的な成果となる。被爆地・被爆国・非核保有国・核保有国・潜在的核保有国のデータがそろったことで、核軍縮に対する国民の意見や世論の構造の分析と国民間の比較分析を可能とした。それによって国家と国民の異なる方向性から核問題の検証が容易になった。この2方向からの研究によって、核軍縮の推進とIAEAおよび国際規範の活用方法と核抑止への依存からの脱却方法に着目して分析を進めている。 2023年度は北朝鮮非核化戦略の研究成果を国際学会と国内学会の双方で報告した。2024年4、5月には世論分析を国内外の学会で報告することが決定している。 核軍縮問題に関する国際世論調査の結果をまとめた書籍(日・英版)を刊行し、国内外の研究者、学術機関、図書館、外務省、自治体、国際組織、メディア関係者などに献本した。 2024年度はこれらの研究成果をまとめ上げ、日本と国際社会の安全保障に貢献することを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍による研究期間の延長をおこない、さらに多くの情報収集と分析モデルの精緻化を目指す。北朝鮮非核化戦略の交渉モデルはベイジアン・ネットワークなどを用いて機械学習モデルのように修正・精緻化を可能とするモデルに発展させて非核化をさせる側が優位に立つ交渉戦略を導き出せるようにする。そして具体的な外交政策を構築して政策提言をおこないたい。これまでの成果は国際学会APSAとISAでワーキングペーパーを発表しており、それらを基にして修正モデルを掲載した論文を執筆し、国際誌に投稿することを目指す。 国際世論調査においては相関分析の時点で核軍縮と核抑止に対する価値観の違いが明確に表れており、研究計画の正しさが裏付けられている。世論の核保有支持のメカニズムのデータ分析を継続し、核保有支持を防ぐ政策を模索する。予算が確保できればさらに核保有国と潜在的核保有国で世論調査をおこない、データの充実化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額がある理由は、第一に、研究報告をおこなう国際学会が東京開催であったために渡航費および宿泊費がなくなったこと、第二に、2024年4月の第一週にサンフランシスコで開催される国際学会の報告準備のために年度末に予定していたIAEA訪問を延期したためである。 次年度のIAEA訪問、国際学会参加および論文の英文校正に使用する予定である。
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