本研究の目的は,社会的評判と金銭的インセンティブが人間行動にどのように作用するかを解明することである.特に,社会的評判制度の導入が協力的行動を促進するか,および個々の社会的評判に基づいて金銭的インセンティブを提供した場合,協力的行動が減少する(クラウドアウトされる)かの2点に焦点を当てる. この研究では,日本最大級のQ&Aサイトにおける2つの時系列的に異なる自然実験(a. 社会的評判制度の導入,b. 金銭的インセンティブの導入)を利用して分析を行った. 先行研究の検討を基に,リサーチクエスチョンを「社会的評判制度と金銭的インセンティブの導入がオンラインコミュニティ上でのイデオロギー的分断や各種差別を助長するか」と調整することが適切であると結論付けた. 具体的には,質問に対する回答のテキストデータを活用し,潜在的意味スケーリングという最新の機械学習手法を使用して,外国人に対する排外的感情の過激さを測定した.質問スレッドの固定効果を考慮した単純な前後比較から,社会的評判への懸念が過激主義と分極化を強化することが明らかになった.また,金銭的インセンティブの導入が過激主義と分極化をさらに促進することも確認された.さらに,差の差分析を用いて,オンラインコミュニティで評判を気にする非匿名ユーザーは,介入後に匿名ユーザーよりも自らの発言を過激化する傾向があることを示した. その他の証拠からは,プラットフォームがユーザー参加の促進を主要な目的としており,過激主義や分極化を緩和する動機がないことが示されている.これがオンラインコミュニティにおける分極化の持続する根本的な理由であることを示唆している.
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