研究課題/領域番号 |
20K01698
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
鈴木 智也 関西大学, 経済学部, 教授 (40411285)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 難民 / 相利共生 / 競争排除 / 状態空間モデル |
研究実績の概要 |
前回の実績報告書で「今後の研究の推進方策」として、「相互作用は考えず、難民申請者の動態について簡単なモデル化から始める」と記載した。当初は特定国から特定国への難民申請者の流入をモデル化する予定であった。しかしながら、様々なデータをみているうち、英国の場合、エリトリアとエチオピアからの難民申請者が興味深い動きを示していることに気づいた。 両国の間では、1998年5月から2000年6月まで、互いの首都を空爆する大規模な国境紛争があった。停戦後も緊張関係は続き、2018年7月の戦争終結宣言まで、大量の難民が発生した。難民の主な行き先の一つは英国である。戦闘が激化すれば、両国からの難民は同じように増えるはずであり、正の相関を示すはずである。しかしながら、フローの数値をみると、異なるサンプル期間を幾つか試しても、相関係数は0.1を切る。また、難民ストックの数値では、相関係数は-0.5に近い値となる。 このことから、少なくとも英国においては、エリトリアとエチオピアからの難民は、相利共生ではなく、競争排除の関係にあるようにみえる。したがって、二国からの難民の関係が相利共生なのか競争排除なのかを統計学的に検定する必要がある。そのため、両方の関係を包括する連立差分方程式をたてて、状態空間モデルを作り、パラメータのベイズ推定を試みている。 もう一つ本年度に行ったことはスピンオフ的な研究である。難民が就業するにしても、彼らがすぐに高い所得を得るとは考えづらく、彼らへの移転所得が必要となりえる。そこで、公的年金に代えてベーシックインカムを導入した場合に、貯蓄や労働時間や消費の年齢別分布がどうなるかを世代重複モデルに基づいてシミュレーションした。その結果、ベーシックインカムに代えると、人々は若年時に消費を増やして労働時間を減らし、引退直前期の貯蓄が年金の場合よりも減るという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で、二国からの難民の流れについて連立差分方程式を立てて状態空間モデルを構築し、パラメータのベイズ推定を試みたと述べた。推定には、RとStanを用いている。しかしながら、現段階では推定がうまくいっていない。 競争排除となっていることがあらかじめ判明しているデータでは、パラメータの正負を事前分布で定めてやることで問題なく、パラメータの推定ができている。したがって、RおよびStanで書いたコードには問題がないといえる。 推定がうまくいかない理由として、可能性の一つにモデルの簡素さが挙げられる。現段階では、英国におけるエリトリアとエチオピアからの難民ストックしか、モデルの変数がない。これらはいずれも内生変数であり、説明力のある外生変数の導入が必要と思われる。 また、たった二本の式からなる単純な連立差分方程式とはいえ、ロトカ=ヴォルテラモデルなどでよく知られているように、非線形なモデルは複雑な変数の挙動を生み出す。したがって、パラメータの値の正負はともかく、取りうる値の範囲を事前分布でうまく制限してやる必要もあるかもしれない。これが推定がうまくいかない理由として考えられるもう一つの点である。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べたようにパラメータ推定がうまくいっていないので、その問題の解決を優先してやっていく。何らかの外生的な説明変数を入れるため、受け入れ国における異なる国からの難民どうしによる争いについての文献をみているが、逸話的な証拠が散逸しているに過ぎないという印象である。そういった逸話から互いの国からの難民を避けるに至る要因を掬いだして説明変数に入れたい。また、上述の通り、事前分布に工夫をすることも平行して行っていく。 また、「研究実績の概要」で述べたスピンオフ的な研究の成果は、査読付き英文学術誌に投稿済みである。こちらについても、査読結果が判明次第、査読レポートに応じて研究のやり直しなどをするつもりである。また、難民申請者の流入増大は人口成長率を押し上げるので、人口成長率の変化を考慮してシミュ―レーションを追加でやり直すことも予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で、初年度にあたる前年度に参加が決まっていた人口学会の欧州大会がキャンセルとなり、次年度使用額が生じていた。それに加えて、二年目にあたる当該年度については、学会の開催が不透明であったので、参加申し込み自体を見送った。その結果、二年連続で旅費が発生せず、次年度使用額が累積することになった。 次年度使用額以外の使用計画には、申請時より変更はない。4.2%にあたる1.7万円が物品費、75.6%にあたる30.2万円が旅費、16.8%にあたる6.7万円が人件費・謝金、3.4%にあたる1.4万円がその他である。 次年度使用額については、当初の予定通り、旅費にあてる。しかしながら、過去に参加していた秋から冬に開催される学会の二つが今年度は本務校の入試業務といずれも日程が重複するため、それらに参加できない可能性があり、その場合には次年度使用額として今年度に持ち越したものをさらにもう一度持ち越すことになる。
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