研究課題/領域番号 |
20K01880
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
原 拓志 関西大学, 商学部, 教授 (60252756)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 安全マネジメント / 組織マネジメント / 組織間関係 / 技術安全 / MAISアプローチ / 技術の社会的形成 / 鉄道安全 / 日本企業 |
研究実績の概要 |
本年度も新型コロナ感染症のパンデミックが続く中、理論や方法論の構築および二次資料の分析を主体とした事例研究の実施を行った。まず、理論や方法論の構築においては、本研究で用いるMAISアプローチについて、技術の社会的構成、技術の社会的形成、技術の二重性論、アクターネットワーク理論、やLeonardiやOrlikowskiらの社会物質性などの先行する議論との理論的位置づけを明らかにし、日本経営学会関西部会(5月8日)において「MAISアプローチとは何か」と題して報告を行い参加者との意見・情報交換を行った。 事例研究については、多くの組織が関係し、その連携の問題から、大惨事となった信楽高原鐡道の事故を関連する多くのアーカイブや裁判例を用いることによってMAISアプローチを用いて分析を行った。これにより従来は明らかにされていなかった組織連携の問題がいかなる物的存在、行為主体、制度的・構造的要因によって形成されたのかを明らかにすることができ、そこからの実践的な教訓や今後のさらなる研究課題について得ることができた。この研究内容は、「MAISアプローチによる信楽高原鉄道事故の分析」という論文として関西大学商学論集(66巻4号)に掲載された。 また、2017年発生の新幹線重大インシデント(台車亀裂)の事例研究をMAISアプローチによって分析した論文"Inter-organizational Collaboration for the Safety of Railway Vehicles: A Japanese Case"が、Contracting and Safety: Exploring Outsourcing Practices in High-Hazard Industries(Springer)の第4章として公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症のパンデミックにより理論や方法論の確立および文献アーカイブ等を用いての事例研究を実施し、国外1本、国内1本の論文発表や国内学会での報告を実現できたことから、不測事態による研究計画の変更はあったものの、研究目的や大きな研究上の問いに対して現段階において十分といえる成果が得られていることを実感している。今後の研究の方向(次の事例研究の対象や分析の視点など)もはっきりしてきている。 上記により、全体として、おおむね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も新型コロナ感染症のパンデミックは続いており、また本年度の経験から二次資料をもとにした事例研究であっても、事例を的確に選び多様な情報源を確保して、相互参照などを図れば、質・量的にかなり信頼性の高い研究が可能であることが明らかになった。したがって、次年度においても信頼できる二次資料が多様な情報源から出されており、裁判例などかなり詳しい経緯の説明が公表されている事例を選んで事例研究を実施することを計画している。そして、それに関する少なくとも1本の論文を公刊することも目指す。 また、MAISアプローチを使った事故プロセスの分析の意義やその安全な社会づくりへの貢献可能性について日本経営学会全国大会で発表をすることを計画している。次年度の当該大会において研究代表者は統一論題の報告者の一人として選ばれている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も新型コロナウイルス感染症のまん延のために、出張を伴う調査が困難であり、また関連する項目の発表を聴いたり自ら報告したりするための学会や研究会などもオンラインで行われたため、旅費が発生することがほとんどなかった。他方で、研究の重点を理論面での精緻化や文献を使っての事例研究に移したため文献や資料の購入に当初計画よりも多くの支出を要した。旅費の減と図書資料費の増とで相殺することになって総額ではほぼ予算どおりの支出となったが、昨年度からの繰り越しがあったため、今年度も少し余り次年度使用額が生じた。 次年度についても未だパンデミックの状況が続いていることもあり、また研究計画も理論精緻化やアーカイブズを利用しての事例研究を進めることに変更したため、次年度使用額については専ら物品費(図書資料)に使用する計画である。
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