研究課題/領域番号 |
20K02028
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
乙政 正太 関西大学, 商学部, 教授 (60258077)
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研究分担者 |
岩崎 拓也 関西大学, 商学部, 准教授 (30611363)
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (60330164)
首藤 昭信 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 准教授 (60349181)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 役員報酬の減額 / 自主的開示 / 固定報酬 / 業績予想 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では,自主的な情報開示として役員報酬の減額あるいは役員報酬の返上がどのような理由で行われているかを調査している。 新型コロナウイルス (COVID-19) の世界的な感染拡大により,2020年4月から5月にかけて役員報酬の減額を公表した日本の上場企業は161社にのぼり,金融危機発生 (リーマン・ショック) 後の2009年同時期を超えている。事業年度中にかかわらず,役員報酬の減額を行う上場企業があり,それは今後の情勢によりさらに増加しそうである しかしながら,役員報酬の減額は経済状況の悪化時だけに行われるわけではない。本年度の研究では,リーマン・ショック以後から新型コロナウイルスの影響が出る前の期間を対象に,役員報酬の減額がどのような理由で,なぜ行われ,それに対して,企業パフォーマンス (主に会計情報),株式市場の反応,あるいは株主還元行動にどのような影響があるかを検討している。 また,役員報酬の見直し (減額や返上) に関する分析視点としては,次の4つがあると考えられる。第1に,期初業績予想が楽観的に設定されていないかどうか,第2に,変動報酬で対応できないほどに固定報酬の割合か高くないかどうかである。第3に,定期同額給与による税制上の優遇措置を受けなくてよいほど実効税率が低いかどうか,第4に,経営組織の内部構造の違いが影響しているかどうかである。これらの要因が期中における役員報酬の減額を決定づけるかどうかについて考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2010年1月から2019年6月末までの間に,決算期で言えば,2010年3月期から2019年3月期の間に,役員報酬の減額に関する適時開示を実施する企業を抽出するために,企業情報データベースサービス「eol」(プロネクサス) から文字検索を行った。検索語句は,「役員報酬の減額」,「役員報酬減額」,「役員報酬のカット」,「役員報酬カット」,「役員報酬の返上」,「役員報酬返上」,「役員報酬の削減」,「役員報酬削減」,「役員賞与の不支給」である。 検索の結果,金融・保険業・その他金融業を除く一般事業会社において,968件の適時開示がみつかった。このうち,減額の継続 (112件),追加の減額 (57件),あるいは減額の解除・廃止 (2件) に関する内容を含むもの,同じ決算期に減額公表が行われているもの (43件),および減額情報の内容が不足・不明瞭であるもの (16件) を除くと738件が残る。また,日本の会計基準に準拠した連結財務諸表を作成している企業にサンプルを絞るため,個別財務諸表のみを作成する企業 (97件),IFRSに準拠する企業 (13件),米国基準に準拠する企業 (3件) をサンプルから除く。さらに,財務・株価データが揃わない63件を除き,最終サンプルとして562件が得られることがわかった。 そこで得られたサンプルから,理由別の開示特性 (取締役会や報酬委員会の決議か自主返上かどうか等),役員報酬の減額率と減額期間,減額の対象者等を手入力した。また,分析に必要なデータベースを更新し,財務データ,株価データ,経営者予想データ,経営者報酬データを利用できるようにしている。
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今後の研究の推進方策 |
分析に必要なデータの収集作業がほぼ終わりになってきている。そこで,役員報酬の減額がどのような状況で行われているかについて仮説と検証を行う。これまで役員報酬の減額の自主的開示に関する学術的・実証的な研究はほとんど見当たらないが,関連分野の先行研究をレビューしながら共同研究のメンバーと議論を重ねていきたい。対面での会合が現状では難しいので,Zoomなどの遠隔会議を開催していくことにする。そのときの議論に基づいて,リサーチ・デザインを構築し,実証分析の精緻化を図っていく。これらの成果をワーキングペーパーにまとめ,学会報告につなげていくとともに,論文作成を行い投稿先を決めていく。 また,経営者報酬に関連するガバナンスが強化されている中で,会計情報が経営者報酬契約においてこれまでと同様の役割を果たしているかどうかについて並行して検討していく。特に,固定報酬の割合が変動報酬の割合よりも高い場合,適切な報酬設計とはいかなるものであるかについて概念的・理論的なフレームワークを構築していく必要がある。
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