本研究は、空き家問題に代表される<住み継ぐこと>に関する課題について、縮小社会における選択的な住み継ぎという観点に立って行うものであった。特に、家屋をめぐっては住居そのものだけでなく、当該家屋での生活に埋め込まれた地域性や共同性があり、それらは金銭的合意と共に<住み継ぐこと>に関して重要な位置にあると考えられるものである。そのため、特に家屋を媒介とした調査の方法を構築することに力点をおいていた。 最終年度にあたる2022年度は、滋賀県栗東市に拠点を置くNPO法人「くらすむ滋賀」との共同により「住まいの記憶史調査」を引き続き行った。また、日本生活学会や日本平和学会において発表を行った。 第一に、研究協力者の竹山和弘が唱えるように、学術専門家だけではなく多様な経験を持つものが調査に参画することの意義が確認された。 第二に、研究協力者の木村敏が唱えるように、具体的には1970年代半ばのように、日本の住居と生活スタイルに決定的な画期となった時期があり、家屋に関する記憶・思い出はそれより以前に遡る場合も少なくないことがわかった。 第三に、家屋を媒介として生活史を聞く方法は、コミュニケーション的記憶と文化的記憶(アスマン夫妻)のいずれの性格の記憶にもアプローチできる可能性があることが分かった。 以上を踏まえ、家屋を媒介として生活史を聞く調査法については、学術研究における社会調査の方法としてのみならず、人びとが自らの歴史を運動的に作り上げていくような意味においてのパブリック・ヒストリー構築にも貢献するものと考えらえる。ただし、その際には歴史の多声性に注意を払い、地域性・共同性を画一的なものとして捉えないための方法上の工夫が必要となる。
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