研究課題/領域番号 |
20K02113
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
武田 俊輔 法政大学, 社会学部, 教授 (10398365)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 祭礼 / 民俗芸能 / 村落 / 他出者 / 関係人口 / オンライン化 |
研究実績の概要 |
本年度はコロナ禍の中で、調査を予定していた滋賀県長浜市の長浜曳山祭は延期ののち中止(2021年4月に縮小開催で実施)、山口県上関町祝島における神舞も中止(2021年に延期されたが、結局は次回は2024年に行うことが決定された)、熊本県阿蘇市の阿蘇神社・国造神社のおんだ祭り中止、滋賀県高島市朽木古屋の六斎念仏も中止となった。またベルギーで開催予定だったEAJSの大会も中止となった。 こうした中、コロナ禍で他出者やその子ども世代、関心を持つ都市の人々が外から地域に入ってくることが難しいことでの祭礼・民俗芸能をめぐる困難、中止に至るまでの経緯や再開に向けた動き、さらに地域外に住む人々のオンラインのような形での関わりに焦点を当て研究を進めた。特に長浜曳山祭については、総當番(祭礼全体の事務局)や町内(山組)の幹部と連絡をとり、中止に至る経緯や祭礼関係者の間で重ねられた議論、2021年の縮小開催に向けた動きやオンラインでのライブ中継にむけたとりくみについて、主にオンラインでの聞き取りを重ねて明らかにした。成果は2020年10月の日本社会学会、2020年12月の民俗芸能学会大会での報告をふまえ、2021年2月に行われた2020年度第1回地域社会学会研究例会で詳細に報告した。また六斎念仏のオンラインでの稽古について調査を行なったほか、各地でのコロナ禍における祭礼・民俗芸能の状況とオンラインでのとりくみについて事例を収集した。コロナ禍以降の地域社会、祭礼・民俗芸能をめぐる社会学的研究として、今後発展させていくべき重要なテーマである。 また当初の目的と関連して1960~70年代にかけての祭礼・民俗芸能への都市からのまなざしやそれが与えた影響を明らかにすべく、NHKアーカイブス学術トライアル研究としてNHKの番組「ふるさとの歌まつり」の残された番組の閲覧・分析と元ディレクターへの聞き取りを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた調査および国際学会での活動についてはコロナ禍により、全面的な変更を余儀なくされた。そもそも調査を予定していた全ての祭礼・民俗芸能が中止されてしまい、また都内からの現地の移動についても配慮を余儀なくされた。また採択され、報告を予定していた国際学会(European Association for Japanese Studies)も延期となった。一方で祭礼の伝承をめぐる困難や中止に至るまでのプロセス、さらに長浜の場合のような再開をめぐる状況やオンラインによる新たな祭礼・民俗芸能の発信、そうした取り組みへの外部からの参与という状況について、オンラインでの聞き取りを中心として具体的な分析を実施し、また学会でも報告できたことは、当初想定しなかった形での新たな研究の発展をもたらす萌芽となった。また「ふるさとの歌まつり」に関する都市からの祭礼・民俗芸能をめぐるまなざしとそれがもたらした地域社会への作用や地域社会の側がそれをどう受け止めたかについての研究を行い、これは番組・資料の閲覧と関係者への聞き取りが中心だったため極めて順調な進展を見せた。その意味で年度後半に挽回できた点で以上の評価を与えてよいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍がもたらした地域社会、祭礼・民俗芸能とそこへの他出者やボランティア等の参加のあり方をめぐる影響については、ここ1、2年というよりもより長いスパンでみていく必要がある。21年4月に実施した長浜曳山祭の調査では縮小開催という形での新たな形態やオンライン化のとりくみによって、担い手による祭礼のあり方の新たな可能性の発見や地域内部での新たな協力体制の構築といった形が生み出された。それは一部は既に課題になっていた問題の解決に向けた動きであり、また今後の祭礼が今回の経験を踏まえた形での新たな方向性に向かうことの表れと考えられる。その意味では一過性の状況というよりは、コロナ禍を踏まえた形での新たな祭礼・民俗芸能の展開がもたらされることになるだろうし、また単年でなくこの研究の研究期間である2024年度までの長期的スパンで見ていく必要があるだろう。長浜については今後も継続的な調査を行い、2021年6月の日本生活学会での報告のほか、英文での依頼論文の刊行を予定している。また他の地域についても、まずはオンラインでの聞き取りを中心としつつ、さらなる継続的な調査を行なっていく予定である。また「ふるさとの歌まつり」に関する都市からの祭礼・民俗芸能をめぐるまなざしについては、ディレクターへの聞き取りを中心に実施していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度については予定していた国際学会への出張が発生しなかったために次年度使用額が生じた。2021年度に当該の学会あるいは他の学会で報告する際の学会参加料に充てる予定。
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