研究課題/領域番号 |
20K02442
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
澤山 利広 関西大学, 国際部, 教授 (90388885)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 国際協力 / サービスラーニング / 青年海外協力隊 / 教育協力 / 教員離職 / SDGs / society5.0 / VUCA |
研究実績の概要 |
後述の「OV教員リレートーク」の立ち上げイベント(8月29日)において『VUCA時代の教育現場』と題し、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が深まる予測不可能な未知の世界(VUCA)における日本の教育環境を展望した。現在、世界のあらゆるレベルで、仮想空間と現実空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決を両立させる人間中心の社会(Society5.0)の実現が模索されている。翻って、日本の教育現場は、女性の占める割合が比較的高いものの、滅私奉公的長時間労働などの日本型雇用慣行が色濃く残る。研究代表者は、教育現場にも広く地域の人材を登用すべきとの立場であるが、教員採用試験不合格者や高齢の元教員に頼らざるを得ない現状からは、現場の切迫感を読み取らざるを得ない。その改善には協力隊派遣地域の教育環境も示唆に富む。そして、AIなどのテクノロジーの活用に糸口を見出したい。エベレット・ロジャースの新しい商品や知識、ライフスタイルなどの伝播の過程を示したイノベーション普及学に照らし、教育現場でのDXの積極的活用には、イノベーター的教員の取り組みを同僚や管理職がサポートするアーリーアダプター的役割が重要であるとした。最後にDXを用いた教育手法の可能性として、英語圏以外での国際協力サービスラーニングでのAI翻訳機の活用を例に、参加者自身の教育的効果と途上国の人々への技術移転の観点から議論した。 2022年2月10日の関西大学国際教育センターセミナー『VUCA時代のボランティアを考える』では、アフガニスタン、フィリピン、カンボジア、ブータンでの国際協力事例を紹介し、Mark Twainが“What is Man?”の中で「環境が人に選択(肢)を与えるのであり、人間の行動はすべて自己満足の結果に過ぎない」とする主張に焦点を当て、国内外でのボランティア活動を通じた自身の成長について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、青年海外協力隊(JOCV)に参加経験のある教員(OV教員)のためのキャリア形成サポートシステム(C-JAT)に関する資料作成(JOCV研究)と、汎用可能な国際協力サービスラーニング(ISL)のコンテンツの探求(ISL研究)からなっている。コロナ禍のために思うような国内外でのフィールドワークができず、本研究も大きな影響を受けている。 研究計画調書では、JOCV研究の手法を、原則、対面インタビューによる質的調査と質問紙による数量的調査の併用とした。前者からは、数値に表れにくい日々の業務上の葛藤や離職に至る機微を聞き取っているがサンプルは多くない。その補完として2021年8月から本研究代表者が主宰するウェビナー形式の「OV教員リレートーク」において、発表者の教育現場での振り返りを基に、聴講者と共にJ-CATなどについて検討している。計9回のトークでは、現役教員や元教員に加え、校長などの管理職や元教育委員長をはじめとする事務局の見解をうかがうことができた。後者については、「第7回関西合同OV教員研究会(8月7日)」と「第45回兵庫OV教員研究会(3月19日)」の参集者を対象にアンケート調査を行った。 ISL研究では、JOCVの任期中のパフォーマンスにヒントを得ながら、フィリピン、カンボジア、ブータンでの活動において試行錯誤を繰り返すとしているが、ほとんどのJOCVの現地活動が中断しており、本研究と関連する関西大学の国際協力ボランティア実習も中止を余儀なくされている。実習の代替として、関西大学の学生と沖縄県今帰仁村および北海道大空町の公設塾生とのオンライン共修プログラムを行っている。フィリピンとカンボジアでの教育協力や平和教育、環境教育を継承した活動である。2022年度にはフィールドでの活動とオンラインを併用するハイブリッド型のSLプログラムに発展させたい。
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今後の研究の推進方策 |
JOCV研究については、JV教員に加え、引き続き彼ら・彼女らを取り巻く人々からの情報の収集に努める。対面でのインタビュイーと、オンラインを活用した「OV教員リレートーク」のスピーカーの個別ケースから推察される傾向を基に、JOCV任期中の前・中・後期別の状況や帰国後のキャリア等を問うアンケート調査を行う。質問紙は、より多くの回答を得るためにインターネットでも公開する。 また、昨今の開発途上国の教育環境や教授法には後発性優位が見られ、必ずしも日本での教育経験に優位性があるとは限らないことから、教育協力ボランティアが派遣前に獲得しておきたい技術や手法があるに違いない。これらの推定を具体的に確認するために配属先のカウンターパートや管理職等にもヒアリングを行いたい。さらに、OV教員を送り出した職場の管理職や教育委員会関係者からは、帰国後のOV教員の活用についてのビジョンを聞き取り、当人とのキャリア・イメージとの齟齬を見ると共に、ビジネスセクターの人事事例とも比較する。加えて、教職未経験者の日本の教育現場のイメージを知るために、JICA関西・横浜主催「教員採用試験を目指すOV向け勉強会(5/29)」などの機会をとらまえて教員志望者にもインタビューを行う。 ISL研究については、フィリピン、カンボジア、ブータンでのISLプログラムの再開に期待しつつも、2022年8月に実施予定の沖縄県内などでの国内の短期サービスラーニングの参加者を対象とした一連のレディネス、現地活動、フォローアップのプロセス毎の半構造化インタビューと、現地活動中に各自が作成するデブリーフィングシート(DS)をまとめたポートフォリオを分析する。ルーブリック評価では、参加者が派遣前と派遣後に作成するルーブリック表の比較によって項目毎の効果・効用を数値化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために国内外の出張を行わなかったため、次年度使用額が生じた。 2022年度の使用計画は、物品費(200,000円)、旅費(393,324円)、人件費・謝金(100,000円)、その他(100,000円)を予定している。
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