ロシア連邦における教科「生活の安全の基礎(ОБЖ)」について、児童・生徒の学力(普遍的学習能力)の形成と学校経営上の問題に関連づけながら、その目的・内容・方法に関する調査・考察を行った。教科「生活の安全の基礎(ОБЖ)」の目的・内容は、ロシア連邦で広く使用されている教科書(Просвещение社)によれば、日本の安全教育と同様、生活安全、交通安全、災害安全の分野に整理することが可能であり、日常生活全般における安全確保のために必要な事項を実践的に理解し、自律的に安全な生活を送るための基礎を育成することが目指されている。そこには、自らの安全という実践的なテーマを通して、未知の社会的経験を意識的・能動的に獲得し、そのプロセスの組織化を含めた学習する能力それ自体が重視されていると指摘できる。 一方、こうした能力は、「ロシアを形成する者」としての普遍的かつ基本的な価値-精神、哲学、経済などと結び付けられ、「ロシア内外の居住する場所にかかわらず、ロシア語とロシア文化を尊重するすべての者の総体」の形成に寄与するものと捉えられている。特に、「生活の安全の基礎(ОБЖ)」がソ連邦時代の軍事教練を引き継いでいることから、2022年2月に始まったウクライナ侵攻などを契機として、「偉大な祖国に貢献」しようとする愛国心に基づいた社会づくりに参加することの意義や責務が強調される傾向が顕著となっている。別な言い方をすれば、「生活の安全の基礎(ОБЖ)」では、行政当局(国家)の強い意向を受けた校長による単独責任制の学校経営のもと、個人が自らの安全について自律的に意思決定に参加する能力の育成よりも、国家の安全保障に貢献する行動規範の獲得に向けた教え込みによる指導が顕著となっている。
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