研究課題/領域番号 |
20K03236
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大木 聖子 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40443337)
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研究分担者 |
宮前 良平 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (20849830)
大門 大朗 京都大学, 防災研究所, 特別研究員(CPD) (20852164)
岩堀 卓弥 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 特別研究員(PD) (50835999)
中野 元太 京都大学, 防災研究所, 助教 (90849192)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 災害 / 不確実性 / コミュニケーション / 論理実証主義 / 社会構成主義 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは「いかにして,未来の不確実な事象への対処行動を人に促す『災害科学コミュニケーション』を構築するか」である.初年度計画では「発災することはあなたにとってどのような意味があるか」を問うワークショップを実施する予定であったが,コロナ禍のため断念せざるを得なかった.一方で,新型コロナウイルス感染症もまた不確実な事象であり,人々はその対処行動を日々求められている.そこで感染症を対象に社会調査を行うこととした. 調査にあたって,まったく新しい事象である感染症と,日本人にとっては多少なりとも馴染みのある風水害や地震災害とでは認知のベースラインに差異がある可能性がある点を踏まえて,2020年10月に九州地方を襲った台風10号と比較できるような質問構成とした. 詳細は省くが,台風予測の不確実性と感染症のそれとでは,わずかではあるが台風の方が許容できている結果となった.全体的には,科学の不確実性は依然として市民には受け入れがたいものであるものの,現実的には,少なくとも予測が過大評価 だったケースについては許容していることが伺えた. また,年度末に感染状況が落ち着いてから,東日本大震災の被災者遺族にヒアリング調査を行った.10年の月日を経て遺族は,あの日までのこと,あの日のこと,あの日からのこと,という時間区切りで情報を整理していた.特に,「あの日までのこと」を語る際に「地震が来ることも知っていた.地震が起こるとどうなるかも何度もシミュレーションしていた.でもそこに自分の家族を登場させてなかった」との一言は,「発災の自分にとっての意味」が重なってくる.論理実証主義的な地震の理解と,社会構成主義的なそれとの乖離を悔やむ言葉と捉えることができるだろう. これらの質的データおよび量的データを用いて,更に分析を進めていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い,対面でのワークショップの実施が困難になったため.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的を果たすために,当初,1)自然災害等の不確実な事象に対して,市民が社会構成主義的に意味を獲得することが,対処行動の変容にどう影響するか明らかにする,2)専門家コミュニティに内在する「正しさ」を伝えるためのコミュニケーションはどのように再構成されるか明らかにする,というステップを計画していた. 現在の感染状況を顧みるに今年度内に落ち着くとは思えず,蔓延状況の中でできることを再検討する必要がある.現に,昨年度に引き続いて夏に実施予定だった高知県でのワークショップが開催中止となった. 今後の研究の推進方策として,学校での活動は市民を対象としたイベントよりも中止になる確率が低いため,防災教育や郷土教育の一環とした教育活動として実施できるよう調整する.学校や中学生をハブとして,保護者や地域住民へと調査対象を広げることで十分なデータを得たい.また,必要に応じて感染症に関する行動変容との比較を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍においてワークショップの実施ができなかったため,ウェブを用いた社会調査を行った.また,緊急事態宣言が明けてのち,東日本大震災から10年を過ぎてから被災者遺族にヒアリングに行ったため,旅費を使用した. いずれも支出は3月であり2020年度だが,支払いは4月となるため,本書類には含まれていない.したがって,2021年度に支出する2020年度予算はない.
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