研究課題/領域番号 |
20K03491
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
和田 博美 北海道大学, 文学研究院, 特任教授 (90191832)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自閉症 / マウス / 超音波 / 母仔分離 / レジデント / イントルーダー / 社会的相互交渉 |
研究実績の概要 |
ヒト15番染色体q11-13重複と同じ変異を持った7Hマウス、およびヒト14番染色体chd8遺伝子欠損と同じ変異を持ったchd8マウスを被験体として用いた。 実験1 新生仔マウスの超音波コミュニケーション: 新生仔マウスを母親から分離して超音波発声を測定し、母親を呼ぶコミュニケーションの変異を明らかにした。7Hは超音波の発声回数が爆発的に増大した。1回の発声が15~100ミリ秒と長く、2~3音節から成り、周波数を複雑に変化させる発声の頻度が増加した。chd8の変異は散発的であった。7Hは脳内セロトニンの減少が確認されている。セロトニン低下に加え母仔分離によって不安が亢進し、母親を呼び寄せる発声が爆発的に増大したと考えられる。 実験2 非接触型レジデント‐イントルーダー場面における成熟マウスの超音波コミュニケーション: レジデントとイントルーダーが雌‐雌、雄‐雌、雄‐雄の3場面で、イントルーダーに対するレジデントの対他個体コミュニケーションの変異を明らかにした。7Hでは、雌同士で発声回数が減少し、15ミリ秒以下の短い発声や周波数変化のない単純な発声頻度が増加した。雄雌ペアおよび雄同士には変異がなかった。chd8では、雄雌ペアは周波数を変化させる複雑な発声頻度が増加した。雄同士では2音節の発声や周波数を変化させる発声の頻度が減少した。雌同士には変異がなかった。7Hの雌同士の変異は新生仔期に見られた変異とは正反対であった。脳内セロトニンは成熟後も減少したままで、不安の高い状態が続いていると思われる。しかし成熟マウスは行動的対処(嫌な相手を避ける、逃げる)が可能なため、パニック様の発声が生じないと考えられる。7Hはレジデントが雌のとき超音波に変異が生じ、chd8はレジデントが雄のとき変異が生じた。遺伝子変異の影響には性差があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自閉症の原因遺伝子を受け継いだヘテロマウス2種類について実験を行った。新生仔期および成熟期における社会的相互交渉場面について、20匹/20ペア前後の十分な個体数を確保し、超音波コミュニケーションデータと動画データを収集した。 しかし新型コロナの感染拡大の影響があり、データの解析が遅れている。そのため令和5年度に繰越して解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に収拾した社会的相互交渉場面での超音波コミュニケーションデータと動画データを解析し、成果を国内外の学会で発表するとともに論文にまとめて学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの拡大により大学内や実験室への立ち入りが禁止/制限されたため、研究に遅れが生じた。また国内外の学会が中止・延期になり研究発表の機会もなかった。このため科研費を次年度に繰り越した。 次年度は研究の遅れを取り戻し、国内外の学会で研究発表するとともに学術論文にまとめる。繰り越した研究費は研究発表のための旅費として支出する。
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