ヒト15番染色体q11-13重複と同じ変異を持つ7Hマウス及びヒト14番染色体chd8遺伝子欠損と同じ変異を持つchd8マウスを使用した。 ◎新生仔の超音波コミュニケーション:新生仔を5分間母仔分離し超音波発声を解析した。7Hの発声回数は生後7~16日目に野生型の2~6倍に増大した。7Hは複雑な発声(長さ15~100ミリ秒,2~3音節,周波数変調型)が増大し,単調な発声(長さ15ミリ秒未満,1音節,周波数変調無し)が減少した。7H新生仔は脳内セロトニン低下に加え,生存が脅かされる母仔分離によって不安が増強し,母親を呼ぶ発声が爆発的に増大したと考えられる。chd8の発声には明確な変異が無かった。 ◎成獣の超音波コミュニケーション:非接触型レジデントR―イントルーダーI実験を1日5分間連続8日間実施し,雌-雌,雄-雌,雄-雄の3 場面で野生型Iに対するRの超音波発声を解析した。7H雌Rの雌Iに対する発声回数は減少した。複雑な発声(長さ15ミリ秒以上,周波数変調型)が減少し,単調な発声(長さ15ミリ秒未満,周波数変調無し)が増大した。成獣は自発的にIから逃げる・避けるなど行動的対処が可能なため,新生仔のように母親の助けを求めて爆発的に発声する必要がないと考えられる。雄Rの雌I及び雄Iに対する発声には変異が無かった。chd8雄Rの雌Iに対する発声では周波数変調型の複雑な発声が増加したが,雄Iに対しては逆に複雑な発声が減少した。雌Rの雌Iに対する発声には変異が無かった。chd8の欠損は脳内神経細胞の成長を阻害するが,単独ではコミュニケーションに対する影響は明確ではなく,他の遺伝子変異との相互作用によって影響が顕在化するのかもしれない。 7Hでは雌の発声に,chd8では雄の発声に変異が生じており,遺伝子変異の影響には性差があると考えられる。
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