研究実績の概要 |
コンパクト複素多様体 Xから自身への全射正則写像 fは同型写像でないとき, 非同型な自己正則写像(endomorphism)という. Xが射影代数多様体ならばfは有限写像, 更にXの小平次元が非負ならばfは不分岐である. 私の研究目的は、非同型な自己正則写像を数多く持つコンパクト複素多様体の構造を分類論の視点から出来る限り具体的に調べることである. それは楕円曲線やアーベル多様体,トーリック多様体を含むクラスであり, 非常に簡明な構造を持つと予想される. 10年間程, 小平次元が負の非特異3次元射影代数多様体Xで, 非同型なエタール自己正則写像をもつ類の研究に取り組んできた. 極小モデルプログラム・錐体定理が自己正則写像の範疇で機能することを見抜き, 小平次元が非負の場合にも非同型な自己正則写像を有する3次元非特異射影代数多様体の構造を完全決定した. 論文は長編で全部で4部あり, Part IIは当該年度に出版されPart IIIも出版予定である. この研究の続きとして 端末特異点を持ち小平次元が非負の3次元射影代数多様体Xで非同型な自己正則写像fを許す クラスの分類を開始した. その準備として正規射影代数多様体が高々有限個の因子型端射線しか持たない為の十分条件を見出した.我々の状況にこの結果と森氏によるフリップの存在定理, および川又氏による極小モデルの有限性定理を適用した. 結果, Xの小平次元が正の場合, fの有限回の反復合成はXの極小モデルの間の非同型な自己正則写像を誘導することが判明した. 極小モデルの有限性が鍵であることが認識できたことは収穫であった. この結果は当該年度に日本学士院紀要から出版された. 詳細な分類は今後の課題である.
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