研究課題/領域番号 |
20K03559
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
高野 啓児 香川大学, 教育学部, 教授 (40332043)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 相対尖点表現 / 対称空間 / 放物誘導 / 安定放物部分群 / 分裂放物部分群 |
研究実績の概要 |
本研究は局所体上の対称空間に付随した「相対尖点表現」の系統立てた構成法を探求するものである。この特殊なクラスの表現は対称空間に付随するすべての既約表現のいわば building block となるものであり、対称空間の非可換調和解析における基本構成単位とも捉えられる重要なクラスであるが、既知の実例は少ない。本研究は相対的楕円トーラスと関係した特殊な対合安定放物部分群からの誘導表現として非尖点的な相対尖点表現の新しい系列を組織的に提供しようとするものである。前年度にはこの方向で、一般線型群の内部対合およびガロア対合の場合で得られた研究成果を発表した。本年度は同様の手法で一般線型群の斜交・ 直交・ユニタリ対合の場合の構成法を研究した。対合の同値類分類が基礎体の影響で複雑となることもあり、まずはできるだけ簡潔に処理できる具体例(偶数次元の特定の形式で定まる場合など)に絞って探ったものの、既知であった極大放物部分群からの1種類の系列しか得られず、新たな成果に結びつけることができなかった。 実際には非尖点的な相対尖点表現がこれら数少ない例に限られるという可能性もある。前年度にはまた、「対合分裂な放物部分群からの誘導はジェネリックには相対尖点的にならない」という一般的な定理を発表できた。この成果を用いて相対尖点的でないと判定できる誘導表現のクラスを調べ上げる研究も行っており、現在その途中段階である。 成功していた前年度の成果と合わせ、直面しているこれらの困難についての現状報告も含めて、2021年6月の「早稲田整数論セミナー」(遠隔実施)にて研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の課題は、一般線型群の斜交・直交・ユニタリ対合で定まる対称空間に付随する非尖点的な相対尖点表現の系統立った構成である。これをある種の楕円トーラスと結びついた対合安定放物部分群からの誘導として得ようとしている。これらの対称空間で、対合安定な放物部分群とそのレヴィ部分群につくられる対称空間のリストアップは遂行できた。次いで実際に相対尖点表現を与えるクラスの絞り込みを、ある種の楕円型トーラスとの関係から調べられるものと期待したが、対合の同値類を簡単なものに限定しても、偶数次元では既知の一系列だけ、奇数次元では候補が消失する場合もあることがわかった。非尖点的な相対尖点表現がその一系列に限られる、あるいは存在しないと判定できるなら、それはまた別の意味を持つ重要な結果となる。その可能性を視野に入れて調べることが必要となった。 2017年のOffenによる研究で、対称空間に寄与する放物誘導を絞り込む手法が得られている。これを利用し、取り上げている具体的な対称空間で該当する放物誘導をリストアップすることも可能と思われる。一方で前年度に本研究計画内で得られた成果として、分裂放物部分群からの誘導はジェネリックには相対尖点的でないと判定できる。これを用いて、事前に絞り込んだ放物誘導から除外できる部分も決定できるであろう。現在この方向で、対称空間に寄与する放物誘導の「色分け」を試みている。除外部分の決定後が上記の一系列だけと決定できる可能性にも(特に低次元であれば)期待している。現状ではいずれも完了しておらず、進捗は遅れていると言わざるを得ない。 なお、前年度もまたコロナ禍の影響で研究集会への対面参加や対面での研究打ち合わせが完全に不可能となり、予定した情報交換の機会は作れずに終わったことも付記しておく。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続き、一般線型群の斜交・直交・ユニタリ対合が定める対称空間に付随した相対尖点表現の構成法あるいは分類を探る。残っている課題は、主候補の一系列以外の安定放物部分群からの誘導にも相対尖点表現があるかどうか、あるいはどれも相対尖点的でないと判定できるかどうか、である。Offen の研究成果を用いてまずはこれらの対称空間に寄与する放物誘導のリストアップを目指す。そのうち我々の前年度の研究成果を用いて相対尖点表現から除外できるものを調べ、対称空間に寄与する放物誘導の「色分け」の可能性を探る。そのために分裂放物部分群の共役類、安定放物部分群との関係(共役や包含)についてより深い知識が必要となるので、そうした構造論的な側面も探求したい。 奇数次の一般線型群でのこれまでの観察からは、非尖点的で相対尖点的なものが存在しないとの結論も予測される。このような極端な状況は対称空間の何らかの構造的特徴の反映であることも予想される。一般的な簡約群で放物部分群の分裂性と安定性の関係、楕円型分裂トーラスの配置の可能性なども考察の対象として、表現論との関連も調べたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も新型コロナ禍の影響により、計画した研究打ち合わせ・情報収集のための出張が不可能なままであり、また出席を予定していた研究集会も対面実施がなく、旅費支出が全くできずに終わった。これが次年度使用額の生じた理由である。 次年度は可能な範囲で研究打ち合わせ・情報収集のための出張(京都大学、大阪大学等での定期セミナーなど)の機会を作れればと考えている。また徐々に対面開催の研究集会も出始めており、数理解析研究所(京都)などでの研究集会への参加が可能であれば、これにも追加的な旅費支出を考えている。さらにこれら研究集会が依然として遠隔開催となる場合に備え、オンライン参加や発表のための機材を追加で購入する予定である。
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