研究課題/領域番号 |
20K03951
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
安武 伸俊 千葉工業大学, 情報科学部, 准教授 (10532393)
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研究分担者 |
丸山 敏毅 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (50354882)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学 / QCD相図 / 状態方程式 |
研究実績の概要 |
本年度は、少数クォーク系の計算によって様々なバリオン質量をすべて再現する現実的な相互作用を最適化計算によって求めた。最適化された相互作用は、カラー磁気相互作用、スピン相互作用である。ただし、バリオン質量に影響を大きく与えない相互作用(クォーク=メソン相互作用やクォークパウリ相互作用など)に関しては、不定性が残されたままである。これらの相互作用の影響は、少数系に対しては大きくないが多体系になると無視はできなくなることを確認した。これは研究開始当初においては、予想しなかったことである。現在、これらの結果を論文にまとめている段階である。 上記の結果に関しては、VR技術を用いた可視化を行い、Youtube等で広く一般に公開する予定である。ここで強調すべきは、可視化に伴う「色」は人工的に後から色付けしたものではなく、色分子動力学の計算結果を直接反映した「色」を表したものである点である。 本研究の究極的な目的はクォーク多体系の計算を実行し、QCD相図を明らかにすることである。上述したように、単純に少数系の計算を多体系へ拡張するわけにはいかない。ゆえに大局的な性質を理解するためにあらかじめ平均場レベルで多体系の特徴を調べることにした。具体的には、クォーク物質とハドロン物質それぞれで状態方程式を平均場近似のもとで数百モデル準備し、相転移に関する熱力学的条件を考慮しつつ、それらの組み合わせによる相転移の様相を系統的に調べた。その結果は、Phys. Rev. D 102, 023031 (2020)にて出版されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたように、当該年度中に最適化によるクォーク間相互作用の導出は概ねできたと言って良い。ゆえに順調に進展していると言える。この相互作用によって、核子やハイペロンの質量をほぼ再現できる。つまり、少数系の計算に関しては、現実的な振る舞いを再現できている。あとはクォークパウリ相互作用をパラメータとして、系統的な計算を行うことで多体系の振る舞いを調べることが残されている。 また、クォーク=ハドロン相転移に関する系統的に調べた論文も出版できているために、着実に論文成果も上げているとといえる。論文の趣旨としては、天文観測による結果を再現するためには、クォークというよりもハドロンの状態方程式である程度決まると言えるものである。この根本的な原因は、2倍の太陽質量付近の中性子星の半径が制限されていないことによると言える。 一方で計算結果の可視化に関しても、Virtual Reality(VR)による視覚化に成功している。これによって多体系の計算過程において、局所的に起きていることを interactiveに観ることが可能になった。実際、VRによって計算エラーに気づいた点も多くあり、この技術の将来性に改めて気付かされた一年であった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、色の合成を完全に取り入れているわけではない。ゆえに、設定した条件によっては、非物理的な結果が出てくる場合がある。この条件を知るために、様々な条件下で最適な物理状態を系統的に探る必要がある。具体的には、数千個の粒子を 6-8fm の周期境界条件を課した箱に入れ、摩擦冷却法によってを最適状態を並列的に探す。最終的には、多体系に由来する不定性も考慮に入れるため、パラメータをふることで現実的な物理状態(原子核の飽和性など)を再現することも止むを得ないと考えている。 上記とは別に、さらなる大規模な分子動力学計算を計画している。その計算規模は従来の千倍を目指している。これには根本的な計算コードの見直しが必要である。本研究で用いる色分子動力学はSU(3)の枠組みに基づいているが、根本的な見直しをするために、まずはSU(2)の枠組みで計算コードを再構築する。この根本的な見直しは、単純な計算コードの初期化を意味するものではなく、将来的なSU(6)を目指すために必要な第一歩にもなってる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために、成果発表を伴う出張ができなかったことが主な原因である。そのために、共同研究者と合わせて40万円ほどの未使用額が発生してしまった。 一方で令和3年度は、夏に国内の対面式の研究会、物理学会も通常開催予定となっていることや、国際研究会(中国で開催予定であるQCS2022)なども控えている。このように出張の機会は増えることが予想され、その出張費用等として使う予定である。
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