研究課題/領域番号 |
20K04015
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
小麥 真也 工学院大学, 教育推進機構(公私立大学の部局等), 准教授 (90548934)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 銀河進化 / 星形成 / 活動銀河核 |
研究実績の概要 |
星形成則の多変数化にあたって重要となる新変数の探索・追加について、前年度の低金属量環境(不規則矮小銀河DDO154の一酸化炭素観測)に続いて輻射場の与える影響についてのケーススタディを進めた。強い輻射場の環境ではガスの物理状態が変化して星形成の効率に影響があると考えられる。このような環境の例として特に活動銀河核の影響下で星形成がどのように変化するかを調べるため、近傍クェーサーである3C273をALMA望遠鏡(Cycle7)を用いて観測した。3C273は母銀河に星間塵が少なく、母銀河全体にクェーサーからの輻射が影響しやすい状態にあると考えられる。 観測の結果、3C273の母銀河のガスから放射されるミリ波の熱制動放射の検出に成功した。この熱制動放射は電離ガスから放射されるものであるが、母銀河の星形成由来であると考えると星形成率が非現実的な値になること、また可視分光から判明しているExtended Emission Line Regionと広がりが同等であることなどから、中心の活動銀河核が直接、母銀河のガスを電離しているものであると判断された。活動銀河核を電離源とした熱制動放射が数10キロパーセクの範囲に広がっているのを検出したのは本観測が初めてであった。電離ガスは母銀河の星質量と概ね同量あり、星形成直前に必要となる水素分子ガスの形成が阻害されている可能性があることがわかった。この成果は査読論文として出版された(2022年5月Astrophysical Journal出版済)。また、画像化を行う過程で極めて明るい3C273活動銀河核と淡く広がった母銀河を同時にイメージングする必要があったが、高いダイナミックレンジを得るための解析技術に関する知見を得た。2022年3月末時点でALMAで得られたイメージダイナミックレンジとしては最も高いものであった。この技術は今後、様々な観測に適用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画中の分子雲カタログについては概ね計画通りに進捗している。また、新変数の探索についてもケーススタディが進んでおり、論文出版も行われている。一方で、共同研究者との打ち合わせや研究成果の発表については国際会議がコロナ禍によって中止になるなど、影響が大きい。また、R3年度に購入予定であった大容量のハードディスクが国際物流の混乱によって納品可能でなくなるなどの影響があった。
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今後の研究の推進方策 |
分子雲のカタログについて当初より少ない天体数であっても速やかに統計解析に移ることで研究計画の進捗に大きな影響を及ぼさないようにできると考えている。一方で、新変数探索の過程(クエーサー3C273のデータ解析)の際に得た高ダイナミックレンジイメージングの知見やクェーサー母銀河の熱制動放射のミリ波での検出成功など、本研究から派生した新規テーマがあるためその部分についても進めていくことで全体として当初計画より大きな成果が得られることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ解析および保存用としてThunderBlade Gen2のSSDディスク(16TB)を設備備品として調達予定であったが、海外版製品の動作確認およびマニュアル作成、初期不良の場合に3ヶ月以上の時間がかかってしまう点など予期しない問題が発生したためにR4年度での購入に変更した。
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