研究課題/領域番号 |
20K04821
|
研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
宇野 朋子 武庫川女子大学, 建築学部, 准教授 (90415620)
|
研究分担者 |
伊庭 千恵美 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10462342)
安福 勝 近畿大学, 建築学部, 准教授 (20581739)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 文化財 / 保存 / 劣化 / 石材 / 水分移動 / 材料物性 / 外装材 / 降雨 |
研究実績の概要 |
本研究は、歴史的建造物である旧甲子園ホテルの外装材として用いられている2種類の凝灰岩(日華石・竜山石)を対象として、それぞれにみられる剥離や欠損といった状態の異なる劣化の要因を、材料分析・熱水分移動解析・フィールド調査により明らかにすることを目的としている。令和3年度(2年目)は、以下の項目について検討した。 微環境の調査:前年度に続き、日華石について冬季の表面温度の実測を行い、凍結の有無を確認した。また、前年度示した夜間放射の影響を抑える対策について検討した。 材料物性の収集と整理:日華石と竜山石について、乾燥状態および湿潤状態での圧縮強度、引張強度のデータを得た。日華石は竜山石に比べ、自然状態での圧縮強度が1/13、引張強度が1/3.5と、強度が低いことが示された。また、日華石では、湿潤した場合の圧縮強度が乾燥時に比べて高い結果となった。さらに、両石材について凍結融解促進試験を行い、凍結融解のサイクルと物性の変化について検討した。両石材とも、凍結試験を繰り返すごとに、細孔径分布が変化し相対的に大きな孔が増えることで、高含水率域の水分伝導率が大きくなることを明らかにした。 材料内の熱水分状態の把握:一昨年度に作成した解析プログラムを用いて、実測した環境条件下での石材の水分状態の変化について一次元の解析を行った。降雨時の環境下での解析から、両石材において特徴的な含水状態の違いが示され、劣化状況との対応が確認できた。また、石材の細孔径の違いが含水領域と凍結範囲に影響しており、同じ気象条件下においても日華石には凍結が生じ、竜山石には生じない状況を明らかにした。 今後は、劣化箇所の定量的な把握方法の検討、実環境を境界条件とした解析による石材内部の熱水分状態の変化の予測、劣化の再現、保存修復方法の検討、同様の事例の調査を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では、①劣化の状況分析と経年変化の定量的評価、②微環境の調査、③材料物性の収集と整理、④材料内の熱水分状態の把握、⑤同様の事例の収集・分析を行う予定である。 ①については、昨年度に引き続き、三次元計測を検討したが、継続的な実測には至っていない。二次元データの蓄積を行っている。②微環境の調査と④材料内の熱水分性状の把握については、両石材の物性と実環境条件を入力した解析を行い、劣化との対応が解明されてきており、おおむね計画通りといえる。⑤については凝灰岩建築物について、引き続き事例を収集する。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定通りで研究計画を進める。最終年度は、劣化の定量的な把握、熱水分解析による劣化メカニズムの解明を進める。また、保存修復材料についても、物性を収集する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際会議の旅費として計上していたが、オンライン開催となり、余剰金が出た。論文執筆などに充てる予定である。
|