本研究では,短繊維複合材の3Dプリント時の流動やパス間の融合,加熱状態の検証などを目的として粒子法を用いて3Dプリントプロセスをシミュレーションするシステムを開発することを目的としている。粒子法としてはMPS法とSPH法が有名である。SPH法は計算速度が速いが,粒子は計算上の代表点にすぎず,物性値は空間全体に設定された関数に従って分布する。これに対してMPS法では粒子内の物性値を微分モデルに従って近隣の粒子の重み付け和から求める。従来の3Dプリントプロセスの粒子法計算では,SPH法が用いられてきた.このため,樹脂と繊維を別の粒子として解析する必要があった。これによって,粒子数制限から繊維の体積含有率が著しく低くなり,実際の繊維の体積含有率でのシミュレーションが困難になっていた。開発したMPS法のシステムでは,粒子を「複合材粒子」として,粒子そのものが繊維と液体または固体の樹脂からなる複合材とすることで,繊維の体積含有率を現実のものと一致させた。樹脂粘性に関しても,繊維の体積含有率とせん断速度,温度などの依存性を考慮した実験式を作成した。伝熱や粘性などの解は陰解法で求めた。表面エネルギーについても考慮した。初年度と2年目は2次元解析が可能となった。また3次元解析も1パスの印刷だけは可能となった。3年目にパス間の融合解析を実施したが,数カ月かかっても解が得られない状態となった。調査の結果,これは樹脂が固体化しているパスに液体の粒子がプリントされる際,粘性の計算で有限値から無限大に発散していることが判明した。これを修正し,粘性を有限値で打ち切るように設定して,実験値と一致するように有限値を設定した。これによって3次元で融合シミュレーションが可能になった。最終年度には,熱伝導異方性を入れるため,ラプラシアンモデルに異方性の影響を入れて修正し,異方性の解析が可能となった。
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