研究課題/領域番号 |
20K05202
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
車田 研一 福島工業高等専門学校, 化学・バイオ工学科, 教授 (80273473)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バクテリア代謝起因不溶性炭酸塩晶析 / バクテリア群 / 尿素 / 加水分解 / 周辺環境水 / 遺伝子解析 / 国内自生株 / 表面増殖 |
研究実績の概要 |
Microbially induced calcite precipitation(MICP)と称される炭酸塩の晶析過程は様々な応用が期待され本研究が目的とする大規模施設の耐用年数増大もそのひとつだ。MICPはウレアーゼ活性型のバクテリア群が尿素を加水分解する際に発生する二酸化炭素が近傍の被溶解アルカリ土類金属等の不溶性の炭酸塩を形成することに起因する。この現象は遍く自然界で観られ,環境負担が極小なためその有効活用が期待される。土中等でのMICPは地盤の堅牢化に寄与する。これを人為的に制禦された様式で誘起する技術がのぞまれる。この研究では先ず人為的MICP高速/高密度発生を可能にする当該有用バクテリアの見出しとその祖分離並びに汎用可能なほど簡便な粗分離技法の確立を企図する。従来MICPを制禦された様式で局所的に高密度で誘起するには高pH環境でも活発にするSporosarcina pasteurii等の安定したパフォーマンスが期待されるバクテリア株が頻用されてきた。しかしこれは外来種とされており日本国内の実サイトでの使用が難しいとされる。MICP現象自体は国内でも遍く観られるため身近な環境(河川や湖沼等)に潜在するバクテリア由来のMICP能を人為的な条件設定により顕在化できれば従来国内では困難とされてきたMICPの実際応用が可能となる。代表者は近隣の二級河川の水に生分解型の親水性高分子の膨潤架橋体に適当な栄養源物質を含浸させたゲル塊を十日間程度浸漬することによりゲル塊の表面にMICP能を顕著に呈するバクテリアを選択的に増殖させることができた。さらにこの回収されたバクテリア群の遺伝子配列の解析をおこないこれが従来から知られる強力かつ低リスクなMICP活性種に近縁することを見出した。ほかにも2から3種類のMICP活性種が生息しておりそれらにも既に知られた近縁種があることが判った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の第一段階として一般の環境水から充分なMICP能を発揮するバクテリア種を粗分離する可能性を試みた。附近の二級河川乃至は小湖沼より水を採取し,そのなかへウレアーゼ活性種が準選択的に表面附着することが期待される適合的な栄養媒体を浸漬した。この栄養媒体は天然高分子から成る所謂ゲル体である。様々な高分子種を基材として試用した結果agar等の既知の培養性媒体に加え,それと較べてもはるかに廉価な多価イオン架橋する多糖系の高分子ひいては吸水性の素材として汎用される荷電型ポリマー等,多種の高分子素材が,ウレアーゼ活性型バクテリアをその表面に密集状態で生息させる一般用培地材として利用可能なことが判った。それらの栄養物媒体に包含させる栄養源物質としては,菌体の増殖目的で最も頻用される酵母抽出液の乾燥顆粒は確かに有効ではあるが,工業的見地からはこれは高価に過ぎるため多くの既往の研究例を参考にして代用の栄養源を多くのスクリーニング実験により探索した。その結果,食品工業廃液等の有機性栄養物を包含する数種類の廃棄物系スラリーがMICP有効株の増殖に有利に作用することが判明した。上記の手法を用いて或る程度の選択制をもってMICP有効バクテリアをごく一般的な液相-固相接触操作で準単離できたので,これらの株の属性を明確にするためにクリステンセン法等によるウレアーゼ活性の試験並びに遺伝子配列解析による近縁種の確定をおこなった。近隣の河川水に上記のウレアーゼ活性種分離用のゲル媒体を十日間程度浸漬した試料を上記の菌の属性試験に供したところ,BLAST-500解析においてSporosarcina pasteurii等のよく知られた低リスク型ウレアーゼ活性種をはじめとして三種から四種類の既知の活性種に近縁な活性株が見出され本手法のMICP有効株の準単離上の有効性が証された。MICP有効株は自生株を活用可能である。
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今後の研究の推進方策 |
河川水等の一般の環境水からMICP能を有するウレアーゼ活性が顕著なバクテリア群をシンプルな手法により準単離できるようになったので,分離された株を栄養源と混合し,局所的にMICPを人工誘引できるようにする。その試行的な応用法は様々あるが,本研究の性質上,これを劣化・崩壊しやすい表層地盤へ適用する。表面から地中へむかって約5cmの深度までをMICPにより発生する不溶性炭酸塩で固化する手法の確立が今年度の具体的な達成目標である。表層地盤の空隙率は通常30%から40%にのぼり,これまでに有効性が確認されたウレアーゼ活性型バクテリアの増殖に適切な栄養源スラリーをそのままで安定に表層領域に保持しておくことはかなわない。この要因は,先ずは上記の過大な空隙率にある。そこで,この空隙を充填し,一時的に栄養源物質を地表附近に数箇月から数年ほど停留させておくための保持材の考案と作製が重要である。この目的には,土中の土構成粒子間の微細な間隙へスムースに浸入しつつも,その後は過度の稀釈などにより流動性が過剰になる蓋然性が低い特性自己調節型の粘稠性流動体の創成が必須である。本段階では,水に対して高い良溶媒性質を付与しうる膨潤性親水性高分子の準稀薄領域でのスラリーが有望と考えている。空隙への固定性が不充分な場合は,必要に応じて瞬時に形成可能な多価イオン架橋も応用する。 表層地盤を粘稠性流動体の含浸により暫定的に固化したサイトに,既に準単離されているウレアーゼ活性型バクテリア群を撤布し,さらに固化反応を誘引するアルカリ土類金属源の水溶液を供給することにより,表層地盤領域においてMICP過程を人為的に高密度で誘発し,元来夏季の降水程度の水流でも容易に崩壊しがちなほど脆弱な表層地盤の固形化/安定化を実現する。なお,MICP誘引型のバクテリアは通常表層土壌中にも自生することが想定され,種推定と準単離も継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
①2020年度に実施しきれなかった遺伝子解析作業(一件50万円程度)があり,次年度使用額が生じた。②上記については2021年度に実施を計画している。③バクテリア等を所用領域に固定しておくための粘稠性流体を作製するための材料高分子をさらに継続して選定し,導入する必要がある。④上記の実験は2021年度に実施するみこみである。
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