これまでの研究により,廃水中の過剰被溶解カルシウムイオンを人為的に制御された条件下で効率的に費消し不溶塩化するためには,ある種の微生物代謝由来の炭酸塩晶析が有為であることが明らかとなった。この様式の炭酸塩晶析は,土壌粒子の相互ブリッジングを促進するため,例えば軟弱地盤の強化でも有意な結果を示すことが判っている。廃水処理・軟弱地盤強化双方において共通して炭酸塩の効率的な晶析には尿素を加水分解して二酸化炭素を発生するウレアーゼ活性型の微生物が必要である。このため,ラボスケールの研究では,確実にウレアーゼ活性を発現する微生物(細菌)を購入して用いるのが標準的である。近年,この微生物代謝由来の炭酸塩晶析を野外の実地で試行する研究例も現れている。そのような大規模な試験で購入された微生物を使用するうえでは,二種類の問題がある。先ず,大規模な実験で高価で購入された微生物を使用すること自体に実際上の難点があり,これをそのまま実用技術へと繋げることは不可能である。他ひとつの問題は,野外の自然環境に元来多くの種類の微生物が自生しているため,人為的に注入乃至撒布された微生物が選択的にそのスポットで殖え所要のウレアーゼ活性を発現する保証がないことである。そこで2022年度は一般的な自然環境中に遍在する微生物(細菌)を対象に択び,それらのうちの炭酸塩晶析に実用上充分な効果を発現する低リスク型菌株を選択的に増殖させ,最終的に,滅菌処理などを施していない完全自然状態の砂を炭酸塩晶析により安定に固化する手法を確立した。この手法においてはウレアーゼ活性を発現する有効細菌の原生が必須条件であるが,この条件はほとんどの自然環境水で充足されることが示唆された。植物枯死体のなかには尿素・水の共存下で著しく高い選択性でウレアーゼ活性型細菌をさせ得るものがあることが見出された。
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