研究課題
研究目的は、光学デバイスへ応用可能な真球性の高いGe、Si微小球(直径3~7μm)の作製について、ナノ秒レーザー照射によってGe、Si薄膜を加熱・溶融・変形する方法の特質を明らかにすることである。本方法では、1個のパッチ状薄膜を1個の球状粒子に変形させる過程と球状粒子の真球性を高める過程の2段階プロセスが必要である。第1の過程では、液体薄膜の構造が不安定なため、薄膜が微細な粒子に分割する傾向が強い。この対策として、つぎの(1)、(2)を検討する。(1)溶融薄膜内の温度分布を制御し、照射領域の外側ほど温度を高くし、表面張力を小さくする。これにより、溶融薄膜を中心部に引き寄せ、照射領域全体にわたる一体的な粒子化を生じさせる。(2)表面凹凸構造の形成によって溶融薄膜の構造安定性を高め、微細化を抑制する。令和2年度、(1)、(2)の有効性を検証するために、Ge薄膜構造の作製方法の研究ならびに新規照射光学系の整備を進めた。Ge薄膜構造の作製について、第1に、薄膜の中心部のみが基板と接触するパッチ状Ge薄膜の作製を検討した。第2に、Si(100)基板を湿式エッチングして、面内方向のサイズが数100 nmの凹凸構造を得た。しかし、この表面を熱酸化した基板を用いてパルスレーザー加熱によるGe薄膜の粒子化実験を実施したが、微細な粒子が多数生成した。新規の照射光学系は、レーザーダイオード励起のナノ秒固体レーザー(波長532 nm)と非球面ビームシェイパを用いたものであり、ガウス型の強度分布をもつレーザービームを均一な照射エネルギー密度をもつビームや照射領域の外側の強度が中心部より大きいビームに変換することができる。この光学系は直径30μmの微小な領域を照射するもので、その領域から1個の球状粒子を得ることを目指す。令和2年度、レーザー装置や主要な光学素子を取り揃え、光学系のテストを実施した。
3: やや遅れている
レーザーダイオード励起のナノ秒固体レーザーの購入に関し、波長やその他の仕様を決めるにあたって慎重を期したため、購入時期が年度末近くとかなり遅れてしまった。それにともなって、非球面ビームシェイパの最終的な仕様の決定が遅れ、その購入も遅れてしまった。非球面ビームシェイパの光学素子の設計値が、ビーム拡がり角などのレーザーの特性によって影響を受けるためである。以上により、新規パルスレーザー照射光学系の整備の開始が年度末に近い時期にずれ込んでしまった。当初、波長355 nmのレーザーの使用を計画していたが、波長532 nmのレーザーに変更した。その理由は、水素化アモルファスSiの波長532 nmでの光吸収が比較的大きいため、この波長でもSi微小球作製の研究を進められること、ならびに波長355 nmのレーザーを用いた実験が技術面・安全面で難しい点が多いことである。一方、パッチ状Ge薄膜の粒子化実験において、当初スパッタリング装置を用いてGeを成膜していたが、装置のトラブルで膜質が悪化してしまい、期待された結果が得られなかった。そのため、急遽真空蒸着法によるGeの成膜に切り替えて実験を行った。そのため、実験に遅れが生じた。
まず、1個のパッチ状薄膜を連続的に変形してマイクロメーターサイズのなるべく大きな1個の球状粒子を得る条件を解明する。そのために、以下の3点を中心に解明していく。第1と第2の課題を令和3年度に、第3の課題を令和4年度に実施する。第1に、薄膜の表面凹凸構造が粒子化に与える効果を明らかにする。これまではSi表面上に湿式エッチングで凹凸構造を作製したが、今後、石英ガラス表面にドライエッチングによってナノサイズの凹凸構造を作製する方法も加えて検討する。ポリスチレン(PS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)のジブロック共重合体薄膜の相分離したナノ構造を用いる。最終的に、反応性イオンエッチングを用いてPSドメインをマスクとして石英ガラス表面をエッチングする。第2に、直径30μmの照射領域を与える光学系を用い、照射領域の最も外側の照射エネルギー密度が中心部より大きいビームを用いた場合の効果を解明する。周辺部の温度が中心部よりも高くなり、周辺部の表面張力が中心部よりも小さくなる。これによって照射領域の外側の溶融薄膜が中心部に引き寄せられ、照射領域全体にわたる一体的な粒子化が期待される。第3に、a-Ge:H、a-Si:H薄膜を用いた粒子化実験を行う。薄膜の作製は、他の研究機関に依頼する。通常のGe、Si薄膜との違いを明らかにする。第1と第2の実験で得た結果を利用して、基板や照射エネルギー密度分布を最適化することも計画する。さらに、令和4年度に、球状粒子化とその後の真球化の2段階照射実験を実施する。直径30μmの照射領域を与える光学系を用い、その中の2/3の面積の領域にパルスレーザーを照射し、Ge、Siの粒子化を行う。つぎに、レーザーを全域に照射し、残りの1/3の領域の薄膜を溶融し、これが先に得られた球状粒子表面をぬらし、薄く拡がることによって高度な真球性が獲得されるどうかを明らかにする。
令和2年度の交付額3,000,000円に対して、電源一体型LD励起パルスレーザーの価格が2,937,000円であり、差額の63,000円を令和3年度に使用することとなった。令和3年度の交付予定額200,000円のうちの物品費150,000円と合わせた213,000円の予算は、新規光学系に追加で必要なλ/2板、偏光ビームスプリッター、ダイクロイックミラーなどの光学素子と各種光学素子用ホルダーの購入費に充てる予定である。