研究課題/領域番号 |
20K05378
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平賀 富士夫 北海道大学, 工学研究院, 助教 (00228777)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / 加速器中性子源 / 電子線形加速器 / 制動放射X線 / 光中性子 / ビーム成形装置 / 腫瘍組織と正常組織のRBE線量率 / 中性子ビームの照射時間 |
研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法のための電子LINACとタングステンのターゲットを用いるビーム成形装置(BSA)は、ターゲットの耐用期間が長いことやBSAの放射化レベルが低くなることなどの利点を有する。しかし、入射電子のビームパワー当たりのターゲットの光中性子生成率が低く、限られた照射時間の間に治療効果のある線量を処方するにはBSAの中性子減速材や中性子フィルターなどの適切な設計が不可欠である。そこで、33MeV・1.2mA (40kW) の電子LINACを用いるBSAの中性子ビームを照射されるファントム内のRBE線量の計算に基づいて、BSAの中性子減速材(MgF2)と中性子フィルター(Al)の最適設計を行った。治療場所の中性子ビームの1×10^9 [cm^-2s^-1] 以上の熱外中性子束、1×10^-12 [Gy cm^2] 以下の高速中性子混入率、3×10^-13 [Gy cm^2] 以下のγ線混入率を満たすような、中性子フィルターと中性子減速材の厚さと面積の組み合わせを調べた。さらに、治療場所に円筒型のファントムを設置し、腫瘍組織と正常組織の10Bの65ppmと18ppmの濃度を仮定し、RBE線量率を計算した。正常組織のRBE線量が10Gy-eqを超えないように中性子ビームの照射時間を決めた。腫瘍組織のRBE線量分布から、治療効果が見込まれる最大深さAD[cm]、確実な腫瘍の死滅が期待される最大深さAD30[cm]を計算した。その結果、36×52×52cmの中性子フィルターと24×52×52cm の中性子減速材を用いる場合、中性子ビームの照射時間が1387.2sになり、腫瘍組織のRBE線量のAD30とADの5.56cmと8.56cmの極大値が得られた。このことから、許容できる照射時間の間に、大脳の中心付近に位置する腫瘍に治療効果のある線量を処方できる見込みを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、33MeV・1.2mA (40kW) の電子LINACとタングステンのターゲットを用いるビーム成形装置(BSA)の中性子ビームを照射されるファントム内のRBE線量の計算に基づいて、BSAの中性子減速材(MgF2)と中性子フィルター(Al)の最適設計を行った。治療場所に円筒型のファントムを設置し、腫瘍組織と正常組織の10Bの65ppmと18ppmの濃度を仮定し、RBE線量率を計算した。正常組織のRBE線量が10Gy-eqを超えないように中性子ビームの照射時間を決めた。腫瘍組織のRBE線量分布から、治療効果が見込まれる最大深さAD[cm]、確実な腫瘍の死滅が期待される最大深さAD30[cm]を計算した。その結果、36×52×52cmの中性子フィルターと24×52×52cm の中性子減速材を用いる場合、中性子ビームの照射時間が1387.2sになり、腫瘍組織のRBE線量のAD30とADの5.56cmと8.56cmの極大値が得られた。このことから、ホウ素薬剤として広く普及しているボロンフェニルアラニンを用いて、許容できる照射時間の間に、大脳の中心付近に位置する腫瘍に治療効果のある線量を処方できる見込みを得た。この研究の成果は「研究実績の概要」に記載したものと一致しており、日本原子力学会 北海道支部 第39回研究発表会(2022. 2. 22)において口頭発表された。(セッション:量子ビーム医療工学、番号:12、題目:電子LINAC駆動のBNCT用のビーム成形装置の最適設計のためのファントム内のRBE線量のモンテカルロシミュレーション、著者:Prateepkaew JAKKRIT・平賀 富士夫(北大工))
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今後の研究の推進方策 |
光中性子源を含む小型の模擬のBSAと、そのBSAの中性子ビームを照射されるファントム内の熱中性子束の測定装置を試作する。北大の電子LINACの100Wのビームパワーの電子を光中性子源に照射し、模擬のBSAの中性子ビームを軽水のファントムに照射し、箔放射化法によりファントム内の熱中性子束を測定する。その際に、入射電子のエネルギーを20MeVから35MeVの範囲でパラメーターとして変化させて調べる。熱中性子束の測定結果とシミュレーション計算の結果を照合することにより、ホウ素中性子捕捉療法において要求される熱外中性子ビームの強度の観点から、電子線形加速器を利用するBSAが可能なのかを検証する。 それに先立ち2021年度は、北大の電子LINACの電子エネルギーを32.5, 29.5, 26.5, 23.5 MeV と変化させて結合型固体メタン減速材の中性子スペクトルを測定し、中性子強度の変化の割合を調べた。中性子強度の変化の割合の測定結果は、モンテカルロシミュレーションによる中性子生成数の変化の割合の計算結果と5%以内で一致することが分かった。この研究の成果は、日本中性子科学会 第21回年会(2021.12. 2)においてポスター発表された。(番号:p2-29、題目:北大LINACの電子エネルギーに依存する中性子ビームの相対強度の測定、著者:Prateepkaew JAKKRIT・平賀富士夫・大沼正人・佐藤孝一・長倉宏樹(北大工))
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次年度使用額が生じた理由 |
光中性子源を含む小型の模擬のビーム成形装置の設計に時間を必要とした。次年度には小型の模擬のビーム成形装置を構築するための消耗品を購入する。
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