研究課題/領域番号 |
20K05410
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
笹尾 英嗣 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 核燃料・バックエンド研究開発部門 東濃地科学センター, リーダー (10421687)
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研究分担者 |
湯口 貴史 山形大学, 理学部, 准教授 (00516859)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 花崗岩 / 割れ目 / 地層処分 |
研究実績の概要 |
本研究は,岐阜県南東部に分布する土岐花崗岩を主な対象として,花崗岩中の割れ目の分布を評価する手法の構築を目的としている。具体的には,マグマの不均一性とマグマ冷却過程を表す情報と割れ目データとを合わせて解析し,割れ目形成プロセスを検討するものである。 2020年度は,土岐花崗岩を形成したマグマの不均一性とマグマ冷却過程を評価するデータとして,石英の結晶化温度とアパタイトのストロンチウム同位体データを取得するとともに,土岐花崗岩で構築する割れ目評価手法の妥当性確認を行うため,割れ目データ等が取得されている国内の他の花崗岩体の抽出を行う予定であった。しかし,新型コロナウイルス感染症の影響で試料採取を行うことが困難であった。そこで,事前に得た石英のカソードルミネッセンス像観察とチタン濃度定量分析のデータを取りまとめ,論文を公表した。また,土岐花崗岩体以外の研究対象岩体の選定を進め,文献調査により割れ目データの有無を確認するとともに,岩石試料の入手可能性を調査した。その結果,北上山地の花崗岩類と飛騨山脈の新しい時代に形成された花崗岩を選定した。このうち,北上山地の花崗岩類についてはボーリングコアを,飛騨山地の花崗岩については岩石薄片を入手した。このうち,飛騨山脈の花崗岩である黒部川花崗岩体の石英に対しては,カソードルミネッセンス像の取得,微量含有元素であるチタンの定量分析を行い,結晶化温度の推定に必要なデータの収集を進めた。 また,アパタイトのストロンチウム同位体については,レーザアブレーションICP質量分析装置(LA-ICP-MS)を用いて測定できる可能性が出てきたため,アパタイトのCL画像取得や微量元素分析等,LA-ICP-MS測定に必要な基礎情報を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で主な対象としている土岐花崗岩では,地層処分技術に関する研究開発の一環で大深度ボーリング孔が掘削されている。2020年度には,大深度ボーリングで得られたコアを採取し,石英の結晶化温度とアパタイトのストロンチウム同位体データなどを取得する計画であったが,新型コロナウイルス感染症対策の影響により移動が制約されたため,タイムリーに試料採取を行うことができなかった。しかしながら,事前に得た石英のカソードルミネッセンス像観察とチタン濃度定量分析のデータを取りまとめ,論文を公表した。 アパタイトのストロンチウム同位体については,当初,外注分析でのデータ取得を予定していたが,研究代表者所属機関保有のLA-ICP-MSを用いて測定できる可能性が出てきたため,2020年度に計画していたアパタイトのストロンチウム同位体測定を2021年度以降に先送りした。なお,アパタイトのストロンチウム同位体を所属機関の装置で測定することにより,当初計画よりも測定可能試料数が増加すると見込まれるため,本研究での測定対象とすべく,過去の研究で使用されたアパタイト粒子の収集を行った。 一方で,土岐花崗岩以外の岩体の選定に重点的に取り組んだ結果,割れ目データが存在し,かつ良質な岩石試料を入手できる可能性のある岩体として,北上山地の花崗岩類と飛騨山脈の黒部川花崗岩体を選定した。これら花崗岩については,2020年度中に試料を入手することができ,当初計画よりも早くデータ取得を始めている。 以上のように,土岐花崗岩の試料採取およびストロンチウム同位体測定を行うことはできなかったが,土岐花崗岩以外の岩体でのデータ取得や同位体測定用のアパタイト試料の入手などは計画よりも進んでおり,全体としては順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の対象は,土岐花崗岩体とその他の花崗岩体に大別できる。 土岐花崗岩体については,アパタイトのストロンチウム同位体測定に向けた装置の調整と試料の準備を進めており,2021年度に測定を行う予定としている。また,所属機関の装置を利用することにより,計画よりも多くの測定を行うことができる見込みとなった。石英の結晶化温度のデータに比べてアパタイトのストロンチウム同位体のデータは比較的少ないことから,今後はアパタイトのストロンチウム同位体のデータ取得に重点的に取り組み,周辺岩盤の取り込みの影響をより詳細に把握する。また,取得したデータと割れ目データとを比較することより,花崗岩マグマ冷却に伴う割れ目形成プロセスを明らかにする。 その他の花崗岩体においては,特に北上山地の花崗岩類で掘削されたボーリングコアを入手することができた。このボーリング孔では良質な割れ目データが取得されており,岩石・鉱物学的情報と割れ目データを直接比較することが可能である。このため,入手したコアを用いて,花崗岩類の岩石・鉱物学的記載,および石英の結晶化温度などのデータ取得を着実に進め,マグマ冷却過程の解明に取り組む。また,取得したデータと割れ目データとの比較を行うことによって割れ目形成プロセスの検討も並行して進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アパタイトのストロンチウム同位体については,当初,外注分析でのデータ取得を予定していたが,研究代表者所属機関保有のLA-ICP-MSを用いて測定できる可能性が出てきたことにより,外注分析を見送った。 所属機関の装置を用いてアパタイトのストロンチウム同位体を測定するためには,花崗岩試料からアパタイト粒子を分離・回収する必要があるが,この作業を効率的に行うため,専門技術を有する外部機関に依頼する。また,北上山地の花崗岩類等,新規に入手した試料の岩石薄片の作製を外部機関に依頼する。次年度には助成金をこれら作業に使用する。
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