研究課題/領域番号 |
20K05623
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
浅井 誠 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (80609941)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 相転移 / 結晶 / ナノ粒子 / 分子動力学 / 高分子 |
研究実績の概要 |
高分子グラフトナノ粒子(PGNP)は、ナノ粒子の硬いレイヤーと高分子の柔らかいレイヤーを併せ持つハイブリッドな材料であり、その柔らかさとその形状自体の不均一性が、PGNP同士のエントロピックな相互作用をもたらす特殊な系である。エントロピックな相互作用が支配する系では、準結晶などの特殊な結晶相が発現することが知られており、メタマテリアル創成の重要なキーテクノロジーである。本研究では、PGNPをモデル化し、分子動力学法を用いてPGNPの凝集構造を調べた。全ての粒子間に作用するポテンシャルは斥力とした。ナノ粒子にグラフトする高分子の分子量(N)及び密度(σ)をパラメーターとし、系の体積分率(φ)を増加させた際の、PGNPsの凝集構造を観察した。本年度は、σが十分に大きい領域(ブラシレジームに相当する程度の高密度)に注目し、PGNPsの凝集構造のN依存性を調べた。Nが小さい領域では、PGNPは剛体球的に振る舞うので、3次元剛体球のアルダー転移とほぼ同じ相転移、すなわちφ~0.6周辺で無秩序からFCCへの相転移が観察された。一方、Nを大きくすると、より低体積分率で結晶相転移が観測された。これは、Nが増加するに伴ってPGNPの剛体球の実質的な粒径が増加したことによる効果である。さらに興味深いことに、Nを増加させることで、FCCとは異なる結晶相への相転移が確認された。このような結晶相は、少なくとも従来のアルダー転移では観測されておらず、現在、この結晶構造の同定を詳細に行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナ禍の影響で、研究施設の閉鎖期間やサーバー不調時のメンテナンスにいけないなどの遅延原因はあったが、狙い通りに新奇な結晶相を発見することができたため、進捗としてはむしろ進んでいる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ粒子にグラフトする高分子の分子量(N)及び密度(σ)をパラメーターとし、系の体積分率(φ)を増加させた際の、PGNPsの凝集構造を観測し、PGNPsの凝集構造の相図の完成を目指す。初年度はσが十分に大きい領域に着目し、新しい結晶相を見出したので、今後はその結晶相の同定を進めつつ、さらに広いパラメーター空間において別の結晶構造の探索を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で学会などの出張経費が全てキャンセルになったことや、大学閉鎖期間などに伴い、計算サーバーの購入などの手続きを中止し、既存の計算リソースや共同利用計算機を最大限利用する事で対処したために繰越金が生じた。繰越金を合わせた次年度の使用計画としては、スーパーコンピューターのライセンス費用に当てる計画を予定している。
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