研究課題/領域番号 |
20K05816
|
研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
大島 敏久 大阪工業大学, 工学部, 教授 (10093345)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | L-アルギニン脱水素酵素 / アミノ酸脱水素酵素 / L-アルギニン酵素分析 / ゲノム情報 / アミノ酸代謝関連酵素 / 構造と機能 / 機能改変 / 耐熱性酸化還元酵素 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、ゲノム情報をもとに見出したL-アルギニン脱水素酵素(L-ArgDH)の大腸菌での発現産物である新規NADP依存性L-ArgDHの生産法の改善とNi-キレートアフィニティクロマトグラフィーによる迅速精製法の改良を主に行った。特に、酵素の安定化に10%グリセロールの添加が長期間の保存に有効であり、その安定化条件下で、精製酵素の酵素化学的特徴のさらなる解明と本酵素を利用するL-Arg分光分析法の改善を図った。その結果、本酵素が分子質量65 kDa の2量体構造をとること、NADPが良好な補酵素(電子受容体)活性を示し、電子供与体としてはL-Argに非常に高い特異性を示す新規のアミノ酸脱水素酵素であることを明らかにした。また、この酵素は、10%グリセロール存在下では低温で少なくとも1か月間安定に保存可能であり、応用面で有効に利用できることを明らかにした。また本酵素を利用する、L-Argの 分析法を検討し、5-100μMのL-Argが438 nmの吸光度の測定から、簡便で特異的に微量分析する方法を確立した。これらの成果をまとめ現在学術誌へ投稿中であり、第1次の査読が完了し、原稿の修正を行っている。また別に、ゲノム情報に基づいたアミノ酸脱水素酵素の検索を行い、60℃に生育する好熱菌においてL-TrpDHホモログ遺伝子を、また90℃に最適生育温度をもつ超好熱アーキアのゲノムにLeuDHホモログ遺伝子を見出すことに成功した。現在、両酵素の合成遺伝子の大腸菌での発現と酵素活性の検出を行っている。さらに、関連研究として超好熱菌アーキアのδ-オルニチンアミノ基転移酵素の立体酵素解析、好熱菌由来のインジゴ還元酵素、色素依存性乳酸脱水素酵素の機能と構造解析を進め、それらの成果を国際誌にて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ゲノム情報をもとに常温菌Pseudomonas菌に新規L-ArgDHの遺伝子の大腸菌における発現と、その安定化条件を見出すことに成功し、機能解析と構造解析、酵素分析への応用を進めた。令和3年度は、機能解析の結果を論文にまとめ、学術誌に投稿したが、それに予定より長期間を要したことが、遅れたこと原因の1つである。また、酵素の立体構造解析をおこなつために、結晶化条件を検討したがまだ成功していない。さらにはゲノム情報解析から、好熱性藍藻にトリプトファン脱水素酵素を、超好熱古細菌にロイシン脱水素酵素の遺伝子ホモログを見出すことに成功した。しかし、これら遺伝子の大腸菌での発現には成功したが、発現産物に予想した活性が検出できていない。この原因と解決法を明らかにするために、種々検討を加える必要があり、これらに時間を要していることも遅れの原因である。さらに、新型コロナウイルス禍による研究成果のとりまとめと実験的データの収集にあてる時間の制限による減少も遅れの一因といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
常温菌のL-ArgDHに関しては、これまでの成果を学術誌に公表後、他大学の研究協力者による構造解析が現在進行中であるので、その解析が終了したら、立体構造情報から、耐熱化、安定化のデザインを行い、変異導入により、基質や補酵素特異性の変換、高活性化、耐熱性などの機能改変をタンパク質工学的に図る計画である。一方、ゲノム情報からL-ArgDHと低いが相同性がある酵素遺伝子を超好熱菌に見出しているので、その酵素の大腸菌での発現と精製、機能と構造解析を進める。さらに超好熱菌のロイシン脱水素酵素や好熱性菌のトリプトファン脱水素酵素の遺伝子ホモログを初めて見出したので、それらの合成遺伝子の大腸菌での発現と生産を行う。今後、これら新規で安定性の高い有用な酵素の耐熱性、基質特異性などの機能と立体構造などの解析を進め、それらの特徴をを明らかにする。またそれらの有用物質の生産や分析への利用など、応用面の新規有用性を明らかにする予定である。さらにフラビン依存性のグルタミン酸脱水素酵素、メゾジアミノピメリン酸脱炭酸酵素やリジン脱水素酵素の部位特異的変異導入により、機能を改変した人工酵素の創製についても検討を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度と同様、令和3年度も新型コロナウイルス禍によって、国内外の学会講演会や研究会の開催が中止となったり、オンライン形式で行われたこと、他大学などで予定していた研究打合わせが中止になったことから、当初予算を計上していた旅費の経費が大幅に縮小した。また、研究室で行う実験研究も制限を受けたことによる消耗品などの経費が縮小したこと、成果をまとめて論文執筆に専念したことなどの理由から、予算を次年度において繰り越ししたことが令和4年度使用額が生じた主な原因である。しかし、令和2年度の研究の成果として、ゲノム情報をもとに有用酵素遺伝子を見出し、その遺伝子を人工合成後、遺伝子発現法、発現産物の機能解析を行う実験法が本研究の目的達成に非常に有効であることを明確にすることできた。それゆえ今後の研究の展開に見通しがついたので、翌年度には、目的の研究の大きな進展を期待できる状況になったと考えられる。翌年度の新型コロナウイルス禍の状況が好転すれば、国際学会、国内学会に積極的に参加して、成果の発表を行うとともに、関連研究に関する最新の情報の収集などに努め、研究の大きな進展を図る計画である。
|