研究課題/領域番号 |
20K05816
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
大島 敏久 大阪工業大学, 工学部, 教授 (10093345)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 好熱菌酵素のゲノムマイニング / アミノ酸脱水素酵素 / アラニン脱水素酵素の機能 / ロイシン脱水素酵素 / 酵素の構造と機能 / 人工脱水素酵素の創製 / タンパク質工学 / 酵素の産業応用 |
研究実績の概要 |
令和4年度までにゲノム情報をもとに見出したPseudomonas veroniiの新規NADP依存性L-アルギニン脱水素酵素(L-ArgDH)遺伝子の組換え大腸菌での発現と発現産物の安定化を達成した。その酵素化学的特徴の解明とL-Argの酵素分析への応用開発に成功し、学術誌に論文として発表した。その発表を踏まえ、本年スイスの研究者から開発した酵素分析法を利用した肝がんの新たな臨床診断への応用研究を行うため、酵素の提供依頼があり応じた。本年度は、L-ArgDHの結晶化、およびX線結晶構造解析に成功し、Int. J. Biol. Macromol.誌で発表した。さらにゲノム情報から好熱性胞子形成菌Geobacillus kaustophilusに2種類のアラニン脱水素酵素(AlaDH)の遺伝子ホモログ(GK2752とGK3448遺伝子)の機能と構造解析から、両酵素は類似した酵素化学的性質と立体構造をもつが、栄養増殖細胞と胞子細胞と異なる細胞増殖ステージで生産されていることを発見した。この成果は学術誌Biochim. Biophys. Acta.に掲載され、関連研究の展開が期待されている。さらに、ゲノム情報に基づいたアミノ酸脱水素酵素の検索を行い、超好熱アーキアにロイシン脱水素酵素(LeuDH)、超好熱性細菌にmeso-ジアミノピメリン酸脱水素酵素の遺伝子ホモログを発見した。両酵素は、これまでにない高い耐熱性を持つ酵素であることが予想され、新たな有効利用が期待できるので、遺伝子の大腸菌での発現と精製、酵素機能の解明と機能改良を進めた。その結果、LeuDHの大腸菌での発現と生産に成功し、アーキアにもLeuDHが存在することを初めて見出した。また、この酵素が80℃-30分間の熱処理でも、失活変性しない、最も熱安定性の優れたLeuDHであることを見出し、新たな利用展開が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度はゲノム情報をもとに見出した好熱菌Geobacillus kaustophilusの2種のアラニン脱水素酵素の機能解析と構造解析の研究成果の学術論文への掲載が完了した。次に、前年度までに、ゲノム情報をもとに見出した2種の超好熱アーキアで最初のロイシン脱水素酵素(LeuDH)ホモログ遺伝子を見出し、そのうちの1種のLeuDHの人工合成遺伝子の大腸菌での遺伝子組み換え法による発現に成功し、その遺伝子発現産物の精製と酵素化学的分析による機能解析の研究を推進した。この超好熱アーキア由来の本酵素は遺伝子組換え大腸菌において良好に発現するが、通常の10~250 mMリン酸緩衝液中では、不溶性で特異的に沈殿することが分かった。その可溶化のために種々検討し、高濃度の尿素(>4M)や塩酸グアニジン(>6M)でのみ可溶化することが分かった。そのために、通常の酵素精製法が利用できず、本酵素の可溶化法、精製法、酵素化学的分析法などにおいて、特異的な手法や条件検討を種々行う必要があり、長時間を必要としたために研究の進展の遅れにつながったと考えられる。また、別の解決策として、もう1つの超好熱アーキアのLeuDH遺伝子(推定)の人工合成と大腸菌における発現、生産法を検討するのにも時間を必要とした。これらのことは当初計画していたmeso-ジアミノピメリン酸脱水素酵素の機能と構造解析、変異による人工D-アミノ酸脱水素酵素への変換に関する研究を進めるうえでも、遅れの原因となった。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は本研究課題の研究の最終年度となる。超好熱アーキアのロイシン脱水素酵素(LeuDH)の大腸菌での遺伝子組換え法による発現とともに、発現産物の精製法の確立、酵素のと化学的特徴の解明、立体構造解析を進める。これにより超好熱アーキアで最初のLeuDHの特徴を解明し、その特徴を生かした産業利用への有効性を明らかにする。次に、ゲノム情報により見出した超好熱細菌で最初のmeso-ジアミノピメリン酸脱水素酵素(meso-DAPDH)遺伝子の組換え大腸菌での発現と精製を行い、これまでで最も耐熱性と長期安定性が期待できる本酵素の特徴を解明する。また、この高度耐熱性meso-DAPDHの基質結合部位のL-アミノ酸結合サイトのアミノ酸認識部位をタンパク質工学的手法により、変異導入して、meso-DAPDHからD-アミノ酸にD-アミノ酸脱水素酵素に変換した人工酵素を創製する。この人工酵素の耐熱性や酵素科学的特徴を解明する。また、構造と機能情報を踏まえ、変異導入を加え新奇な基質特異性や高活性をもつ人工耐熱性D-アミノ酸脱水素酵素の創製を目指す。それにより新たなD-アミノ酸生産用バイオリアクターの応用面の開発を進める。ゲノム情報から応用面においてより有用性が期待できる高い安定性を示すトリプトファン脱水素酵素(TrpDH)をゲノム情報をもとに見出し、遺伝子組換えによる生産性の改良と簡便な精製酵素の調製法を確立し、酵素機能の解明後、新規なバイオセンサーやバイオリアクターへの応用開酵への可能性を明らかにする。これらの結果から、大量に蓄積され、今後も増大するゲノム情報を利用し、産業面に有用な酵素を簡便に見出すゲノムマイニング法と、構造と機能解析からの情報をもとにタンパク質工学的に改良した人工酵素を創製することが、酵素の産業利用を計るうえで新しい手法として有効であることを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はゲノム情報から見出した超好熱アーキアで最初のロイシン脱水素酵素(LeuDH)遺伝子ホモログの大腸菌での組換え実験によりLeuDH活性の高生産に成功した。大腸菌で生産されたLeuDHは活性を有すること、これまでで最も高度耐熱性LeuDHであることを見出すことができた。しかし、予想に反して、本酵素の溶解度が通常使われる条件下では不溶性となり、酵素の精製が困難となった。そのために沈殿酵素の可溶化のための条件を種々検討した結果、「本酵素は高濃度の尿素や塩酸グアニジンにより可溶化」されることを見出した。しかし尿素や塩酸グアニジンを取り除くと再度沈殿を形成するために、従来から知られている一般的な酵素可溶化法や精製法が有効でなく、特殊な可溶化や精製法を検討する必要があった。そのような試験研究に予想以上に時間をとられたために、当初予定していた本酵素の機能解析や結晶構造解析、応用研究への取り組みが遅れ、また別の予定していた超好熱菌のmeso-ジアミノピメリン酸脱水素酵素の機能と構造解析、タンパク質工学的手法によるD-アミノ酸脱水素酵素への変換の研究も遅れ、次年度に行うことになった。それに伴い当初計画ほど予算を消費することが減り、次年度使用額が生じた。
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