肥満関連疾患の発症は、補酵素であるNAD+の減少による脂肪細胞に起因すると考えられている。高脂肪食の摂取がNAD+合成経路の律速酵素NAMPTの発現を抑制し、これがNAD+合成量の低下と細胞老化を引き起こすとされている。従って、NAMPTの発現量を増加することができれば、細胞老化を抑制し肥満関連疾患を制御しえると考えられる。昨年度までの成果から私達は、大豆イソフラボンであるゲニステインがNAMPTの発現誘導を介して高脂肪食に起因する耐糖能異常を緩和することを見出している。本年度は、ゲニステインによるNAMPTの発現誘導がどのようにして耐糖能の異常を改善するのかを検証した。野生型マウス(WT)とNAMPTヘテロノックアウトマウス(KO)の脂肪組織から脂肪前駆細胞を単離し、脂肪細胞へと分化させた。その結果、KO細胞はWT細胞よりも脂質形成と糖質代謝改善ホルモン(Adiponectin)の発現が抑制され、KO細胞にNAD+前駆体を処理することでこれらの抑制はWTと同程度まで回復した。Adiponectinの発現は脂肪細胞分化の主要転写因子PPARγによって制御される。KO細胞ではWTと比較してPPARγの発現が遺伝子レベルで抑制されていた。従って、NAMPTから合成されるNAD+は脂肪細胞への分化を制御することで全身の糖質代謝を正に制御していることが示された。NAD+はタンパク質の脱アセチル化反応の基質となる。WTと比較してKO細胞でアセチル化タンパク質が増加し、NAD+前駆体の添加でアセチル化タンパク質は減少した。以上の結果から、ゲニステインによるNAMPTの発現誘導とNAD+合成量の増加は、タンパク質のアセチル化レベルを低下することで脂肪細胞への分化を制御し、その結果Adiponectinの発現量を増加していることが示された。
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