研究実績の概要 |
本研究の目的は, 2019年と2020年の夏季に発生した, アコヤガイの外套膜が委縮し, 軟体部が黒変する大量死の原因究明 (細菌感染症の検証) と, アコヤガイの殻の内側が黒変し, 死亡する別の疾病 (殻黒変病) の原因細菌Tenacibaculum sp. Pbs-1株の特異検出法の開発である。2020年度の実施状況について以下に報告する。 1. 2019年夏季に細菌検査した全ての病貝から単離されていた, 白色コロニーを形成する細菌の特徴を詳細に解析した。本菌株 (MA3株) のDNA gyraseと16S rDNAの塩基配列, 生化学性状試験, 抗生物質耐性試験, 増殖可能温度や海水濃度の検証の結果, MA3株は, Vibrio属の新種である可能性が示唆された。さらに, 病原因子の1つである溶血タンパク質ヘモリシン (Vhe1) を検出し, その遺伝子配列を明らかにした。2. 健常なアコヤガイにMA3株を感染させ, 病気の再現を試みた。その結果, 水温28℃で実験感染させた全ての死亡個体で, 自然発病貝と同様の症状(外套膜の萎縮, 鰓の黒変)が確認された。また, 実験感染個体の組織からMA3株が再分離された。これらの結果から, 2019年と2020年に発生した外套膜が極端に委縮する大量死の原因は, Vibrio sp. MA3株の感染が原因であることが強く示唆された。3. 殻黒変病の原因細菌Tenacibaculum sp. Pbs-1株の特異PCR法の開発を行った。その結果, これまでに報告されている他の病原細菌のPCR法よりも反応時間が約30分短い (反応時間55分), 2STEP PCRを開発することに成功し, 特許申請した (特願2021-021128)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは, 2019年と2020年の夏季に発生した, アコヤガイの外套膜が委縮し, 軟体部が黒変する大量死がVibrio sp. MA3株の感染が原因である可能性を見出した。さらに, アコヤガイの殻の内側が黒変し, 死亡する殻黒変病の原因細菌Tenacibaculum sp. Pbs-1株の特異PCR法を開発することができた。本研究は, 計画通り順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は, 以下の実験を着手する予定である。 1. MA3株が産生するヘモリシン (Vhe1) の特徴を詳細に解析する。同定したヘモリシン (Vhe1) を発現用pETベクターと発現用大腸菌BL21を用いて大量発現させ, Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィで精製する。得られた発現産物の至適温度や熱耐性など酵素学的諸性質を調べる。2. MA3株の16S-23S internal spacer regionをターゲットにした種特異的プライマーを設計し, 様々なPCR条件を検討することで種特異的PCR法を開発する。3. 成貝への感染実験の詳細な検証と幼生への感染実験。感染させるMA3株の菌体密度と病気の発症の関係や病理組織学的検討, マイクロプレートを用いた幼生への感染実験を行う。4. Tenacibaculum sp. Pbs-1株の特異検出法の高感度化と簡便化を行う。遺伝子を等温で増幅することができるLoop-mediated Isothermal Amplification (LAMP) 法を開発する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響で, 大学が休校になったり, 学会や出張が取りやめになったりしたため, 物品費や旅費として計上していた予算に余りが生じた。これらの予算は, 2021年度に計画している上記の研究計画を遂行するための準備や試薬類の購入のために使用する計画である。
|