研究実績の概要 |
本研究の目的は, 2019年と2020年の夏季に発生した, アコヤガイの外套膜が委縮し, 軟体部が黒変する大量死 (軟体部萎縮症) の原因究明と, アコヤガイの殻の内側が黒変し, 死亡する別の疾病 (殻黒変病) の原因細菌Tenacibaculum sp. Pbs-1株の特異検出法の開発である。2022年度 (最終年度) の成果について以下に報告する。 1.軟体部萎縮症の1因として示唆されたVibrio sp. MA3株が持つ精製ヘモリシン (Vhe1) のホスホリパーゼ活性の特性解析を行った。その結果, Vhe1のホスホリパーゼ活性の至適温度と至適pHは, それぞれ50℃とpH8.0だった。またNaClの濃度依存的に活性が上昇し, 高いNaCl耐性も示した。さらに, 中鎖脂肪酸 (C8~C12) に対して高い活性を示した。2.MA3株のアコヤガイに対する感染実験を行った。その結果, 実験終了時の累積死亡率は65%となったが, 各個体から検出された細菌DNAコピー数には個体差がみられた。一方, 瀕死個体で観察された特徴的な病理組織学的所見は, 心筋のびまん的な変性・壊死であった。したがって, MA3株に感染した病貝では心臓の機能不全と, それに伴う出入鰓血管を介した循環障害が起こっているものと推察された。3.MA3株の高感度, 定量的, 特異検出可能なqPCR法の開発を行った。本法は, 一般細菌が多数存在する海水中からもMA3株 (10cellsまで) を定量的に検出することができた。本法は論文で報告するとともに, 特許申請を行った。4.殻黒変病の原因細菌Tenacibaculum sp. Pbs-1株の特異LAMP法の開発を行った。その結果, 迅速, 高感度, 特異的, 目視検出可能なLAMP法を開発することに成功し, 論文で報告するとともに特許申請を行った。
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