研究課題/領域番号 |
20K06207
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
南 憲吏 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (50793915)
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研究分担者 |
宮下 和士 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (70301877)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アオコ / 藍藻類 / 体積後方散乱強度 / 音響計測手法 / 計量魚群探知機 |
研究実績の概要 |
藍藻類が異常繁殖した状態であるアオコは、ダム湖の水質悪化の原因となる。本研究は、アオコの分布を空間的かつ定量的に評価することを目指した、音響計測手法を用いたアオコの分布推定手法の開発を目的とする。本年度は、アオコの音響反射強度および細胞数に関する調査を実施した。調査は、福島県田村郡三春町の三春ダムにおいてアオコが一年のうちで最も多くなる夏季にあたる2020年8月に実施した。調査では、周波数38kHzおよび120kHzの計量魚群探知機を用いた音響計測、バンドン式採水器(植物プランクトン用サンプル採集)とシンドラープランクトントラップ(動物プランクトン用サンプル採集)によるサンプリングをおこなった。なお、採水深度は深度ロガーを採水器に取り付けることにより確認した。得られた音響情報は、音響解析ソフトEchoViewを用いて、湖底から発生するガス泡、魚類からの音響反射、電気ノイズなどを除去し、採水された深度の音響反射強度(体積後方散乱強度SV)を抽出した。また、植物プランクトン、動物プランクトンともに採水サンプルから種組成および細胞数のカウントを行った。これら音響情報と細胞数を比較したところ動物プランクトンや藍藻類以外の植物プランクトンとは関係がみられなかったが、藍藻類では細胞数の増加に伴い音響反射強度も増加する傾向を示した。ただし、水温躍層が確認された深度10m以深においては藍藻類においてもその関係はみられなかった。水温躍層下は、貧酸素環境にあることや腐泥の滞留などによる音響反射強度への影響が原因していると考えられた。これらから、水温躍層よりも浅い深度帯において、音響情報を基にした藍藻類の細胞数推定の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、コロナウイルス感染症の影響により共同研究者や調査受け入れ先との対面での綿密な研究打ち合わせや解析が実施できない状況にあった。しかし、調査は予定していたアオコの発生期間である夏季に実施でき、そこで得られたデータを解析することで音響情報を基にした藍藻類の細胞数推定の可能性が示された。また、水温躍層以浅といった測定条件など、計画段階においては予想していなかった知見まで明らかになりつつある。加えて、藍藻類の音響特性についても38kHzと120kHzの音響情報について取得したデータを基に現在も継続して解析を進めている。これらのことから、音響計測手法を用いたアオコの分布推定手法の開発に向けて概ね順調に進捗しているといえる。ただし、本年度は期間が限られた中でのフィールド調査の実施であったため(感染対策として調査受け入れ先からの依頼)、収集データは必要最低限にとどまっており、予定していた現地での藍藻類のガス胞観察は実施することが出来なかった(後日、研究室で観察は不可能)。そのため、当初予定していた藍藻類に形成されるガス胞の大きさから音響反射強度を計算するという理論的なアプローチに遅れが生じている。このことについては次年度(2021年度)計画に追加してデータをとる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、藍藻類は細胞数の増加に伴い音響反射強度も増加する傾向が示された。しかし、調査期間が制限されたことによりデータ数が少なく関係性を明確にするためには、データの追加が求められる。従って、2021年度も本年度と同様の調査を実施し、データを追加することで関係性の明確化を目指す。また、水温躍層下の環境では関係性がみられないという点においても、考察にとどまっている。環境データを取得するなど行い、その原因についても検討を進める。これにより、どのような環境条件だとアオコの音響計測が可能・不可能なのかを明らかにし、音響計測手法を用いたアオコの分布推定手法の開発を進める。また、藍藻類に含まれるガス胞を考慮して理論的に検証したアオコの音響反射強度に関する知見が本年度に報告された(Ostrovsky et al. 2020)。本研究で理論的なアプローチに遅れが生じている点については、この知見を加味し、2021年度に調査を実施することでカバーする。ただし、2021年度においても本年度と同様にコロナウイルス感染症の影響によるフィールド調査期間や研究打ち合わせの制限が予想される。適宜、状況に臨機応変に対応しつつ研究遂行することとする。
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