研究成果の概要 |
神経細胞の獲得は動物の進化における大きなイベントの一つであるが,祖先的神経細胞がどのような性質を備えていたのかについては未だに不明である. 申請者は,クシクラゲの一種カブトクラゲを材料に最先端の質量分析技術を用いた網羅的ペプチドミクスを行った. 現在までに,多くの神経ペプチドの同定に成功し,免疫染色によりそれらが発現する神経細胞を同定した. また単一細胞トランスクリプトームデータを用いた発現解析から,クシクラゲと刺胞動物/左右相称動物のペプチド発現神経細胞が類似の遺伝子シグネチャーを有することを見出した.今回の知見は,動物の進化においてペプチド性神経細胞が最初に登場した可能性を強く示唆する.
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
近年のクシクラゲゲノムの解読は,最も原始的な系統の一つであるこの動物系統が,多くの神経関連遺伝子を欠いていることを示し,このことからクシクラゲ類の神経細胞が独立に進化したとする仮説が提唱されるなど,注目度の高いトピックである.しかし,このテーマに関する国内外の研究のほとんどがゲノム情報に基づく遺伝子の保存性の議論に終始しているのに対して,申請者らは独自のアプローチで神経ペプチドを多数見出し,さらにクシクラゲと刺胞動物/左右相称動物の神経系の相同性を示した.以上の知見は,最も祖先的な神経細胞の進化的起源を理解する上で極めて重要な情報を提供しており,世界的にも非常にインパクトのある研究である.
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