本研究では、近縁種群(科または属)内において、既知の染色体基本数に大きな変化が見出されているシダ類として、以下の3群について、バックボーンとなる系統関係の解明(異質倍数体の認識も含む)、DNA含量の測定、染色体数カウントを行って、データを得た。 ハナヤスリ科の1C-valueとしては、ナガホノナツノハナワラビで最小の6Gbから、最大の種ではその20倍以上であることが判明した。これらのゲノムサイズの解釈については未だ検討の余地が残されるが、現在二倍体とみなしている個体が実は四倍体であると解釈すると、1C-valueの振れ幅が小さくなる例が多く、倍数体起源の系統の基本数の見直しの必要性が示唆された。 ホングウシダ科エダウチホングウシダ属については、新規に材料を収集して染色体数を正確に観察し直した結果、従来報告されていたよりも染色体基本数の変化が小さいことが明らかになった。本研究の目的を達成するための材料としては適さなくなった部分があるが、一方で染色体基本数の異なる個体間の雑種や異質倍数体の存在が確認された。また、染色体基本数の異なる個体間で1C-valueの有意な差は検出されなかった。 コケシノブ科については、科内で最も染色体基本数に顕著な変化を示すコケシノブ属を主対象に解析を行った。得られた染色体数、DNA含量を解析した結果、本属の1C-valueは染色体基本数との相関は見られないことが明らかになった。系統関係と総合すると、本属では染色体が減少する方向での進化が急速に起こった可能性が高いことが示唆され、つまり染色体の結合が何度も起こった可能性が高いことになる。系統-1C-value-染色体基本数の三者を統合して議論できる初めてのデータが得られたことは、シダ類のゲノムサイズ進化解明の上でも意義が大きい。
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