頭側胸椎の形態は、霊長類の姿勢や移動運動様式の違いを反映している可能性が示唆されている。これは、頭側胸郭が前肢筋のアンカーとして機能しているためである。したがって、頭側胸椎の調査は、絶滅した類人猿の胸郭形態と移動運動様式の進化過程を明らかにする新しい情報を提供する可能性がある。しかし、アフリカの中新世類人猿の頭側胸椎の化石はほとんど報告されていない。本研究では、三次元(3D)データを対象として、変形除去を施したオリジナル形状を有するナチョラピテクス・ケリオイの頭側胸椎標本KNM-BG 48094(推定第3~5胸椎)を、三次元幾何学形態測定学を用いて分析・調査した。変形除去には、自然にあり得る形態変異の尺度を確立するための参照データとして、陸上に生息するオナガザル類が使用された。オナガザル類と現生類人猿の胸椎形状はかなり異なる。そして、ナチョラピテクスの胸腰椎形態は、一般的には前者と類似しており、後者とは異なる。従って、オナガザル類を参照データとして選択することは合理的だと考えられる。変形除去モデルは、元の形(変形前)よりも参照に似ている可能性がある。このような分析の限界により、ナチョラピテクスの胸椎陥入は、どちらかと言えば原始的な状態を保持しているものと推定された。それにもかかわらず、観察された主な特徴は、横突起が椎体に対して背側に位置し、背側外方に向かっており、オナガザル類やクモザル類に比べより顕著であった。そして、これは弱い脊椎陥入を示唆している。つまり、KNM-BG 48094変形除去モデルは、進化的に胸椎陥入の初期段階を示唆し、ナチョラピテクスの頭側胸椎が独自の特徴を持つことを明らかにした。
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