研究課題/領域番号 |
20K06868
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
眞田 佳門 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50431896)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大脳新皮質 / 神経前駆細胞 / 中間前駆細胞 / DYRK1A |
研究実績の概要 |
大脳新皮質の形成過程において、神経前駆細胞は脳室を取り囲む領域(脳室帯)に限局して存在する。大脳新皮質形成の初期段階では、神経前駆細胞は自己複製してその数を増やす。一方、発生が進むのに伴って神経前駆細胞は、中間前駆細胞と呼ばれる細胞を生み出すようになる。この中間前駆細胞はその後、細胞分裂して神経細胞を生み出す。このような神経前駆細胞から神経細胞への系譜は、細胞内外のシグナルによって調節されている。また、このシグナリングが破綻すると、脳形成異常が起こると推察できる。 本研究では、多種多様なシグナリング経路に関与するDYRK1A(タンパク質キナーゼ)の脳発生における役割を解析した。その結果、DYRK1Aを神経前駆細胞に強制発現すると、神経前駆細胞から中間前駆細胞への分化は正常であった。一方、DYRK1Aが過剰発現する中間前駆細胞の神経分化が著しく遅延することが判明した。また、その結果として、コントロールと比較して、中間前駆細胞が蓄積するようになった。重要なことに、大脳新皮質では、神経細胞の最終位置は、神経細胞が誕生する時期によって規定されることが知られる。つまり、早い時期に誕生した神経細胞は大脳新皮質の深層側に位置するようになり、遅い時期に誕生した神経細胞は大脳新皮質の表層側に位置する。DYRK1Aの過剰発現により、中間前駆細胞から神経細胞が生成されるタイミングが遅延するという結果をもとに、DYRK1Aが過剰発現する中間前駆細胞の最終位置を調べた。その結果、コントロール細胞と比較して、表層側に位置するようになった。興味深いことに、DYRK1Aはダウン症において 三倍体化している遺伝子であり、その発現量は増加している。本研究は、脳発生に関与し、細胞内外のシグナルの橋渡しをする分子を同定できたと共に、ダウン症の脳形成異常についての、細胞レベルおよび分子レベルでの知見を提供する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にしたがって研究は推移している。神経前駆細胞から神経細胞の産生という、脳発生において重要なイベントに関与する分子を同定し、その細胞レベルでの役割を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において推進してきたDYRK1Aについて、中間前駆細胞の神経分化が遅延するメカニズムを明らかにしていく。具体的には、中間前駆細胞の細胞周期や神経分化能を精査する。また、得られた知見とダウン症との連関に迫りたい。そのため、ダウン症モデルマウスなどを利用することを計画している。 また、従来から継続して実施している、セロトニンのシグナリングについて、神経前駆細胞の自己複製能や神経分化能に及ぼす影響を、培養した神経前駆細胞を用いて精査する。また、セロトニン受容体の拮抗薬等を用いて、本課程に関与するセロトニン受容体のサブタイプを明らかにする。この解析により得られた知見を基に、in vivoにおいて、そのセロトニン受容体の役割を精査する。具体的には、マウス胎仔への遺伝子導入法(子宮内胎仔電気穿孔法)を用いて、そのセロトニン受容体サブタイプをノックダウンする。さらに、神経前駆細胞の挙動を調べ、セロトニン受容体シグナルの役割に迫る。これら解析により、神経前駆細胞におけるセロトニンおよびセロトニン受容体を介したシグナリングの役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、国内集会や国外集会への参加があまりできなかった。次年度は、本繰越分をもとに、学会への参加など、成果の発表に積極的に使用したい。
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