視床線条体ネットワークの構造・機能マッピングと認知行動機能における役割の解明

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K06912
• 研究機関: 福島県立医科大学
• 研究代表者: 加藤 成樹 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (90443879)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2024-03-31
• キーワード: 視床線条体

研究実績の概要

運動・認知・情動などの高次機能を媒介する行動の発現は、大脳基底核あるいは大脳辺縁系を連関する神経回路が関与し、興奮・抑制制御によるネットワークを介して実現される。外界からの刺激を認識した後、理解・思考のプロセスを経て行動を起こす際に、視床は基底核および辺縁系回路の両者における中継核の役割を果たす。また、認知障害を併発したパーキンソン病患者の死後脳剖検による視床の器質性異常の報告から、視床は精神・神経疾患の発症との関係も推定されているが、投射・入出力パターンが非常に複雑であるため、視床を介する経路特異的な行動機能を示す報告は限られている。このことから、視床と基底核および辺縁系を連関する神経路の役割を詳細に解明することが課題である。
本研究は、独自に開発したウイルスベクターシステムを用いることで、特定神経回路の入出力系を1つの単位として機能評価することを可能とした。この技術の応用によって、入出力関係が複雑な行動制御における神経回路の役割を厳密にコントロールすることができるようになり、視床-線条体路と高次脳機能の関係やその行動発現の際の脳内メカニズムを紐解くことで、視床-線条体路の生理機能研究を大きく発展させることが見込まれる。

令和2年度は、これまでマウスにおいて実施されてきた視床線条体経路除去実験をラットに移行して行うための条件検討を行った。マウスよりラットの線条体は大きいため、線条体をsubdivisionに分画してウイルスベクターを打ち分け、視床との解剖学的な結合関係を調べた。これによって、視床から線条体前方及び後方への2つ入力系として扱い、それぞれの神経連絡が行動機能にどのような影響を与えるかを解析した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

細胞標的法を用いて、イムノトキシン受容体であるインターロイキン2受容体aサブユニット (IL2Ra)を発現する逆行性ウイルスベクター (NeuRet-IL2Ra)をラットの線条体に投与し、視床において受容体分子が発現していることを確認した後、視床にイムノトキシンを注入して、視床線条体経路の選択的除去を誘導した。組織学的な解析から、標的神経回路における神経連絡が除去されたことを確認した。

令和3年度は、この実験条件を用いて視床線条体神経路を除去したモデル動物を使用し、行動試験を行うと同時に、行動試験中における神経活動の変化の記録実験の条件検討を行う。

今後の研究の推進方策

視床線条体経路除去モデル動物作出の条件は整ったので、その動物を用いた行動試験における行動評価を行うと共に、線条体及び視床における神経活動の記録実験の条件検討を行う。

また、行動の変化と神経活動変化との因果関係を結びつけるため、記録データの解析方法の検討を行う。

次年度使用額が生じた理由

昨今のコロナウイルス感染症の拡大のため国内外の学会が中止及びオンライン開催になったこと、また実験に必要な機器・試薬の搬入は大幅に遅れたことなどから、2020年度の研究進行が遅れたため。

研究成果

• [雑誌論文] Enhanced retrieval of taste associative memory by chemogenetic activation of locus coeruleus norepinephrine neurons. (2020)
  • 著者名/発表者名: Fukabori, R., Iguchi, Y., Kato, S., Takahashi, K., Eifuku, S., Tsuji, S., Hazama, A., Uchigashima, M., Watanabe, M., Mizuma, H., Cui, Y., Onoe, H., Hikishima, K., Yasoshima, Y., Osanai, M., Inagaki, R., Fukunaga, K., Nishijo, T., Momiyama, T., Benton, R. and Kobayashi, K.
  • 雑誌名: J Neurosci. 巻: 40 ページ: 8367-8385
  • DOI: 10.1523/JNEUROSCI.1720-20.2020
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Dopaminergic signaling in the nucleus accumbens modulates stress-coping strategies during inescapable stress. (2020)
  • 著者名/発表者名: Cui, W., Aida, T., Ito, H., Kobayashi, K., Wada, Y., Kato, S., Nakano, T., Zhu, M., Isa, K., Kobayashi, K., Isa, T., Tanaka, K. and Aizawa, H.
  • 雑誌名: J Neurosci. 巻: 40 ページ: 7241-7254
  • DOI: 10.1523/JNEUROSCI.0444-20.2020
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Pseudotyped lentiviral vectors for tract-targeting and application for the functional control of selective neural circuits. (2020)
  • 著者名/発表者名: Kato, S. and Kobayashi, K.
  • 雑誌名: J Neurosci. Methods 巻: 344 ページ: 108854
  • DOI: 10.1016/j.jneumeth.2020.108854
  • 査読あり
• [雑誌論文] Macaques exhibit implicit gaze bias anticipating others’ false-belief-driven actions via medial prefrontal cortex. (2020)
  • 著者名/発表者名: Hayashi, T., Akikawa, R., Kawasaki, K., Egawa, J, Minamimoto, T., Kobayashi, K., Kato, S., Hori, Y., Nagai, Y., Iijima, A., Someya, T. and Hasegawa, I.
  • 雑誌名: Cell Rep. 巻: 30 ページ: 4433-4444
  • DOI: 10.1016/j.celrep.2020.03.013
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] The emergence of a stable neuronal ensemble from a wider pool of activated neurons in the dorsal medial prefrontal cortex during appetitive learning in mice. (2020)
  • 著者名/発表者名: Brebner, L.S., Ziminski, J.J., Margetts-Smith, G., Sieburg, M.C., Reeve, H.M., Nowotny, T., Hirrlinger, J., Heintz, T.G., Lagnado, L., Kato, S., Kobayashi, K., Ramsey, L.A., Hall, C.N., Crombag, H.S. and Koya, E.
  • 雑誌名: J Neurosci. 巻: 40 ページ: 395-410
  • DOI: 10.1523/JNEUROSCI.1496-19.2019
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] Comparative analysis of retrograde gene transduction efficiency between various modified virus types. (2020)
  • 著者名/発表者名: 加藤 成樹, 小林 和人
  • 学会等名: 第43回日本神経科学大会
• [図書] 決定版 ウイルスベクターによる遺伝子導入実験ガイド (2020)
  • 著者名/発表者名: 平井宏和、日置寛之、小林和人
  • 総ページ数: 281
  • 出版者: 羊土社
  • ISBN: 978-4-7581-2247-4