研究課題
動物は自然界で生き抜くためにさまざまな感覚系機能を駆使して情報収集し、それが命の危険に晒されるようなものであれば瞬時に身を守る行動を選択する。一方で生存に欠かせない摂食行動であったり、子孫繁栄のための求愛行動が実行される際にも、動物がその場に応じて取るべき行動が発現できるように情報の統合・制御・出力を脳内でコントロールしている。皮質・視床・線条体などを連関する大脳基底核ネットワークは、ポジティブ/ネガティブフィードバックを行いながら、大脳辺縁系とも密な神経連絡を通して、運動・認知・情動行動の統御をしている。中でも視床はさまざまな脳領域を繋ぐ中継核としての役割を担い、また精神・神経疾患の発症との関わりも示唆されているが、神経回路レベルでの機能的な研究成果は非常に少ない。本研究は、特定の神経ネットワークの機能を選択的に亢進/抑制する技術を基盤として、視床ー線条体回路の生理機能研究を推進することを目的とし、本経路における高次脳機能に関わる行動発現の脳内メカニズムを明らかにすることを目指す。マウスを用いた先行研究では、視床束傍核 (Parafascicular nucleus, PF)ー線条体神経回路の選択的機能阻害実験によって、視覚性弁別課題における学習獲得及び実行機能に必須であることが示唆されている。これをさらに解析を進めるため令和4年度は、視床PFから入力を受ける領域を背外側前方線条体 (anterior dorsolateral striatum, aDLS)と腹外側後方線条体 (posterior ventrolateral striatum, pVLS)に分けて、PFーaDLSおよびPFーpVLSの両経路を標的とした機能操作モデル動物を作出した。本モデルを用いて、聴覚性の音弁別による感覚刺激においても、本経路が学習行動の制御に関与することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
線条体をaDLSおよびpVLSのsubdivisionに区別した経路ターゲッティングモデル動物の作出に成功し、その行動試験を行ったところ、期待する行動変化を誘導することに成功した。現在はこの実験条件を使って、動物数を増やすことで実験データの確からしさを精査している。
視床PFから線条体における2つのsubdivisionへの入力系が異なる行動機能を持つことを明らかにするため、行動試験結果の解析をより詳細に行い、特に学習行動獲得の時期特異性に注目しながら、経路除去のみではなく光遺伝学・化学遺伝学を用いた機能促進、抑制系の導入と神経活動記録実験のためのさまざまな検討を行う。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
Neuron
巻: In press ページ: In press
10.1016/j.neuron.2023.04.013
Cell Rep. Methods
巻: 3 ページ: 100393
10.1016/j.crmeth.2022.100393
J. Neurosci. Methods
巻: 381 ページ: 109707
10.1016/j.jneumeth.2022.109707
Curr. Biol.
巻: 32 ページ: 1-9
10.1016/j.cub.2022.06.083