研究課題/領域番号 |
20K07010
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
室本 竜太 北海道大学, 薬学研究院, 准教授 (30455597)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TYK2 / 炎症 / 一塩基多型 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患等の自己免疫疾患発症リスクの増加と相関するTyk2遺伝子の一塩基多型はアミノ酸置換を有する変異タンパク質を発現させる.そのTyk2変異体が自己免疫疾患発症を促進する説明となる分子機構は解明されていない.本研究ではTyk2変異体機能と疾患の新たなつながりの解明を目指す.解析では野生型マウスおよびTyk2欠損マウスから採取した骨髄細胞より骨髄由来マクロファージを誘導しRNA-seqを実施しTyk2欠損により発現変動する遺伝子群を新規に同定した.細胞内代謝反応に伴って生成される内在性毒性物質メチルグリオキサールを消去する酵素グリオキサラーゼ1がTyk2による発現制御を受ける新規分子の一つとして見出された.Tyk2欠損骨髄マクロファージではグリオキサラーゼ1高発現の特徴に合致した性質を示した.メチルグリオキサール曝露により惹起されるストレス応答キナーゼ活性化やTNF-α産生が野生型マクロファージに比べて有意に抑制された一方,過酸化水素曝露により惹起される応答には影響が見られなかった.さらにTyk2欠損マクロファージの細胞内では近年新しく報告された翻訳後修飾機構であるタンパク質乳酸化が亢進していることが観察され,このタンパク質翻訳後修飾の変化はグリオキサラーゼ1高発現と関連している可能性が示唆された.グリオキサラーゼ1を含めTyk2やその変異により機能制御を受ける分子を同定し炎症・免疫応答調節における役割と分子機構を解明することで疾患発症制御機構に対する理解を深めることができると考えられ解析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでTyk2との機能的関連が未知である候補遺伝子群の中からTyk2下流で働く新規エフェクター分子を絞り込み機能解析を進めた.細胞内の代謝系に関連して生じる内在性毒性物質メチルグリオキサールによる炎症反応の調節においてTyk2がグリオキサラーゼ1を介して役割をもつことが示唆された.また,近年マクロファージを含む細胞の機能調節に役割をもつことが報告されている新規翻訳後修飾であるタンパク質乳酸化がTyk2による制御を受ける可能性を新たに見出した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究でTyk2による制御を受けることが同定されたメチルグリオキサール消去酵素グリオキサラーゼ1についてTyk2依存的発現調節機構の解析を継続し,特にTyk2の一塩基多型による影響を含めて解析し明らかにする.また,グリオキサラーゼ1機能亢進と新規翻訳後修飾機構である乳酸化とがミエロイド系細胞の機能調節や炎症・免疫疾患の文脈においてどのように相互に関連するかについて明らかにする.また,直接的に乳酸化修飾を受ける新規標的タンパク質を同定することで分子機構の一端を明らかにすることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の時期に実施した一部実験において経費節減に努めたため.未使用額分は次年度に実施する動物実験用の動物購入および消耗品購入費に充当し使用する.
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