研究課題
肺高血圧症は、肺血管の障害によって肺血管抵抗が増加し、持続的に肺動脈圧が上昇する致死性の疾患である。肺高血圧症分類の第1群であり、最も典型的な臨床像を示す肺動脈性肺高血圧症(指定難病)の主な原因は、肺動脈平滑筋の攣縮と肺血管リモデリングの亢進である。これらの病態には、各種シグナル分子の異常や過度な細胞内カルシウム濃度上昇が関与していることが知られている。我々は、肺動脈平滑筋細胞に発現し、細胞外カルシウム濃度を感知するカルシウム感受性受容体の発現増加および機能増強が、肺動脈性肺高血圧症の肺血管リモデリングに関与していることを明らかにした。また、カルシウム感受性受容体の選択的拮抗薬が、肺高血圧症モデル動物の病態を改善することも示した。最近、カルシウム感受性受容体の発現を制御する生体内因子を見出すことに成功した。肺動脈性肺高血圧症において、血中濃度が増加する血小板由来成長因子に着目したところ、血小板由来成長因子がカルシウム感受性受容体の発現を亢進することを明らかにした。血小板由来成長因子刺激による血小板由来成長因子受容体のリン酸化は、特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞で長く持続していた。血小板由来成長因子受容体の下流シグナルであるERK、Akt、STAT1、STAT3のリン酸化も特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞で促進していた。本申請課題では、カルシウム感受性受容体の発現を誘導する新規生体内因子や経路を同定し、肺動脈性肺高血圧症の発症および病態形成メカニズムの解明を目指す。さらに、同定した分子を標的とした新規肺高血圧症治療薬の開発(創薬)も展開する。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した本年度の計画に沿って、実験を順調に進めることができた。また、その研究成果を学術雑誌や学会で精力的に発表することができた。
カルシウム感受性受容体の発現が増殖因子により調節されている可能性を探るため、血小板由来成長因子以外の増殖因子とカルシウム感受性受容体の関連に注目して予備実験を行った。正常ヒト由来の肺動脈平滑筋細胞に増殖因子Xを作用させるとカルシウム感受性受容体の発現が亢進する結果を得た。さらに解析を進めたところ、興味深いことに、特発性肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞では、①増殖因子Xをリガンドとする受容体が高発現していた。②低酸素刺激において、カルシウム感受性受容体や増殖因子X受容体の発現が時間依存的に亢進した。③血小板由来成長因子受容体と増殖因子X受容体の下流シグナルであるAktのリン酸化が促進していることを認めた。これらの結果は、肺動脈性肺高血圧症患者で亢進した増殖因子が、共通してカルシウム感受性受容体の発現を亢進させ、病態を悪化させていることを示唆している。したがって、血小板由来成長因子や増殖因子Xシグナルによるカルシウム感受性受容体の発現制御機構の解明は、肺動脈性肺高血圧症の新たな治療戦略につながると考えられるため、さらに詳細に下流シグナルを解析する予定である。
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、全ての学会がオンライン開催となったため、旅費が不要となり繰越金が生じた。この繰越金を活用して、本申請課題を発展的に進めるため、次年度に免疫組織切片の解析装置を購入する予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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