研究課題/領域番号 |
20K07269
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
井上 隆司 福岡大学, 公私立大学の部局等, 研究特任教授 (30232573)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | TRPM4チャネル / 遺伝性心不整脈 / 興奮伝導障害 / 電気生理学 / 数理モデルシミュレーション |
研究実績の概要 |
(1)TRPM4チャネルQ854R変異体のゲーティング数理モデルを精緻化し詳細な検討を行った結果、(a)電位に依存した「閉状態→開状態」の遷移が、静止Ca2+濃度付近で既に異常に亢進しており、Ca2+濃度増加の影響を殆ど受けないこと(すなわちCa2+依存性の見かけ上の消失)、(b)「開状態→閉状態」の遷移は静止Ca2+濃度付近で著しく減速しており、高度なCa2+濃度増加によって漸く正常の遷移速度に復帰すること(すなわちCa2+感受性の見かけ上の減弱)が明らかになった。更に、TRPM4分子モデルによる構造解析から、S2-S3ヘリックス部のQ854変異で引き起こされる構造変化が、細胞質からCa2+結合ポケットへのCa2+のアクセスを促進する(すなわちTRPM4チャネルのCa2+結合部位は静止状態のCa2+で高度に飽和している)可能性が示唆され、これが(a)、(b)のゲーティング変化を説明する分子機序として有望であると考えられた。 (2)TRPM4変異の不整脈性評価を行うための多階層モデルの計算負荷・誤差を軽減することを究極の目的として、完全畳み込みニューラルネットワーク(FCNN)を用いた深層学習による単一細胞活動電位のシミュレーション手法の開発に着手した。予備的な結果として、Hodgkin-Huxleyタイプの活動電位を高い精度で再現することができた。(会津大学朱博士との共同研究)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Q854R変異体による詳細なゲーティング解析と分子構造モデルによる解析によって、その不整脈性変化を引き起こす分子基盤を推定できた。また、多数の連立微分方程式に基づいた計算負荷・誤差の大きな単一細胞活動電位モデルを、FCNNを用いた深層学習モデルによって代替するための展望が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
ゲーティング解析と分子構造解析から示唆された、Q854R変異による催不整脈性ゲーティング変化の分子機序を確証するため、Q854や近接するアミノ酸残基について、系統的変異の導入などによる機能解析を行う。 深層学習モデルを用いたアプローチを、既存のより包括的単一細胞モデルへと拡張する方法を探索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文として発表するために詳細なメカニズム解析の期間が必要である。延長年度は、共同研究者(会津大学コンピュター理工学部上級准教授、朱欣博士)との打ち合わせ旅費や論文投稿料などに使用する予定である。
|