研究課題/領域番号 |
20K07378
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
土橋 洋 国際医療福祉大学, 国際医療福祉大学病院, 教授 (90231456)
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研究分担者 |
北川 雅敏 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50294971)
坪地 宏嘉 自治医科大学, 医学部, 教授 (50406055)
野村 幸世 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (70301819)
後藤 明輝 秋田大学, 医学系研究科, 教授 (90317090)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | mTOR / trefoil factor-1 / Forkhead box O / 細胞老化因子 / SASP因子 / 肺癌 |
研究実績の概要 |
我々は肺癌培養細胞とヒト肺癌組織で、Akt/mTOR系の下流に位置し、mTORの活性化により発現が抑制される分子として同定したTrefoil factor (TFF) family蛋白質の機能解析を行ってきた。本基盤研究により、i)TFF-1の培養細胞における腺癌株特異的発現、ii) TFF-1の増殖抑制、細胞死の亢進、等を報告してきた。本年度は更に1) 肺癌患者血清/尿中TFFのバイオマーカーとしての有用性を誌上報告し(Oncol. Lett. 2023)、2)術後患者のfollow upで、血清TFF-1、TFF-3がリンパ節、局所再発で上昇する傾向を認め (論文準備中)、3) TFF-1 promoter活性がmTORにより制御される経路で、転写制御に介在する分子としてHNF-3/4、リン酸化型c/EBP1が関与する可能性を示唆するデータを得たが、当初その関与を想定していたGATA-3とGATA-6は否定的である(解析継続、かつ論文準備中)等を明らかにした。これらに加え、4)血清TFF-1は早期癌患者で有意に変化する他(Oncol. Lett. 2023)、年齢と共に上昇する傾向が得られた事より(未発表data)、SASP(senescence-associated secretory phenotype)因子の側面を有する可能性を推定した。この老化とTFF-1発現両現象の制御に関与するAkt/mTOR系共通因子として文献的にFoxO3aが報告されていたのでリン酸化型FoxO3aの組織切片上での発現解析に着手し始めた。また腺癌ではTFF-1は粘液産生腺癌で高発現していたので(Oncol. Lett. 2023)、組織学的にMUC2、MUC5AC、MUC6発現と比較したところ胃型ムチンのMUC5ACと動態変化が類似することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は当初mTORの発現により抑制される蛋白質としてTFF-1を同定したが、mTORの系による制御機序の解明に難航したため、TFF-2、TFF-3も含めたTFF familyの機能解析、肺癌バイオマーカーとしての有用性の解析を並行させ、そちらが先行する結果となった。本年度の経過として 1. mTORによるTFF-1発現制御の責任転写因子の解析も進み、候補のGATA3、HNF-3/4、 c/EBP、GATA6から活性化に焦点を当て、リン酸化ELISAキットを用いた解析でHNF-3/4とc/EBPに絞り込んだので、確認実験を行い早急に誌上報告したい。 2. 未治療の肺癌患者での解析は終了し、術後患者における解析では局所、リンパ節再発との関係でデータを得られたが、術後に化学療法を追加した症例が多く、なかなか症例数を増やせなかった。有意な症例数に達したところで誌上報告する予定である。 3. 更に非腫瘍性肺疾患患者も解析し、癌患者に近い結果(TFFいずれもが高値)であるが、統計学的有意差は得られていない。その原因の一端としてTFF-1は年齢と共に上昇する傾向にあったので、次年度内には解析を完了できなくとも、TFF-1を老化関連因子としても解析する方針とした。 4. 既述のようにTFF-1は細胞の粘液産生と密接な関係を有し、ムチンのタイプとの関連のデータを得たのでこれについても解析を進めている。 以上、興味深いデータが得られてはいるものの、当初の予定とはやや異なる方向への進展をたどる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
1. 術後患者におけるTFF-1、TFF-3の再発、リンパ節転移との関連解析は症例が増えても有意差が消失しない事を確認した時点で誌上報告する。 2. 昨年度から継続的に解析を続行しているが、健常人の老化、喫煙習慣との関連は既に検体数が揃っているが、同一人物からの再採取や喫煙歴、生活歴のより詳細な検索も進める。 3.これも昨年度から考察していた点だが、組織染色ではTTFはいずれの組織型の肺癌でも陽性を示しうるにも拘らず、培養細胞でimmunoblottingやELISA、定量RT-PCR解析を行うとTFF-1発現は腺癌株のみに見られた。この矛盾についてはTTF-1、Napsin-Aなどの腺癌特異的蛋白質の機能に注目している。TFF-1発現、非発現の両種の腺癌株にこれらのsiRNAを導入してその増殖、形質変化を比較し、機序解明に迫りたい。 4. 既述のようにmTORによるTFF-1の転写制御解析が本研究の基礎的研究部門の核であり、最後の確認実験を早急に終了させて、誌上報告する。 5. TFF-1は肺癌に関しては培養細胞で癌抑制遺伝子的に機能するが、癌患者では早期より血中で高値を示すバイオマーカーであるという一見相反する両側面を有する。この原因がTFF-1が老化関連のSASP因子としても機能するからであるという仮説も興味深い点で、純粋な健常者のみの集団から、より多数のサンプルを用いた解析で仮説を検証する。またTFF-1の発現制御因子であるmTORは老化関連因子として知られているので、両者の相互関係もできる限り解析したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 昨年度に本基盤研究中の計画を発展的に変更して、術後患者の検体も定期検査時に採取してアッセイする計画を追加し、24か月迄のフォローアップと決定した時点で遅れが生じた。その後は術後患者におけるTFF-1、TFF-3レベルと局所再発、リンパ節転移との関連性を認めたので症例の上積みにより統計的に有意な結果を確認すべく時間を要している。 2.非腫瘍性肺疾患患者でも並行して解析を行ってきており、血清TFF-1、2、3レベルは癌患者と類似で患者で高値を示す傾向を認めたが、非腫瘍性の手術は圧倒的に少数であるため症例の収集に時間を要している。 1.2.の解析に関しては次年度使用分として若干の消耗品経費を必要とする。 3. 当初の主たるテーマでは無かったが、免疫組織染色からTFF-1の粘液産生性癌、特に浸潤性粘液腺癌における高発現、胃腺窩上皮型ムチンとの共局在、あるいはTFF-1と老化との関連を示唆するデータが認められたため、これらの観点からも解析することとし、時間を要している。研究の方向性がやや散逸的になったが、実験の方法論自体は不変である。現有の機器ですべて遂行可能だが、消耗品は次年度使用分から粘液や老化関連試薬(抗体)を購入する必要性がある。
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