研究課題
上皮間葉転換(EMT)とその逆反応であるMETは癌悪性化の様々なステップで重要である。EMTは癌細胞の細胞死抵抗性や運動性を亢進させ、再発や血管への移行を促進する。また、遠隔臓器へ移動した癌細胞はMETによって上皮様形質を再獲得し活発に増殖して転移巣を形成する。現在までにEMT/METによる上皮・間葉形質の可塑性の詳細な分子機構は解明されておらずこの機構を標的とした治療法は存在しない。我々は以前に、分子標的治療法が存在しないTriple-negative乳癌(TNBC)において一部の細胞株では上皮様と間葉様の細胞が一定の比率で共存していることを見出し、腫瘍内における上皮・間葉形質の可塑性を解析可能なモデルとして提唱した。本研究ではこの可塑性を誘導する遺伝子についてCRISPR/Cas9とプール型gRNAによって網羅的な解析を試みた。まず上皮様および間葉様細胞を抗体を用いずに分取するためにE-cadherinとVimentinプロモーターを用いた蛍光レポーター細胞を作成し、抗体染色と同程度の分画が可能なことを確認した。これらを用いて2万遺伝子に対する6万種類のgRNAによるEMT関連遺伝子のスクリーニングを行った。上皮画分・間葉画分におけるgRNAの存在比からEMT/METに影響を与える遺伝子を絞り込み、実際に単一のgRNAによるノックアウトを行って既知のEMT/MET関連因子だけでなくこれまでEMTへの関与が未知であった遺伝子を含めて約40遺伝子がEMTを促進、約20遺伝子がMETを促進していることが分かった。今後、これらの遺伝子の過剰発現による機構解析などを進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度はスクリーニングから得られた遺伝子に対して、それぞれ2本ずつノックアウトのためのgRNA発現ベクターを作成して遺伝子ノックアウトによるEMT/METへの影響を確定させるための検討を行った。その結果、2本とものgRNAによって上皮画分、間葉画分の比率が変化する遺伝子を得ることが出来、実際に機能的にEMT/METを制御可能な遺伝子の絞り込みに成功した。一部の遺伝子については過剰発現によるEMT/METへの影響の解析も行いノックアウトの逆の影響が表れることも確認出来た。更にスクリーニングでは得られていないファミリー分子についてもEMT/METへの関与を示唆するデータが得られ、網羅的な解析によるEMT/MET関連因子の全貌が明らかになりつつある。以上の結果から現在までの進捗はおおむね順調に進展していると考えられる。
今後は得られた遺伝子のEMT/MET遷移過程における発現量の変化を1細胞解析によって明らかにしつつ、各遺伝子のEMT/MET調節機構の解析を進める。近年EMT/METは多段階の反応であることが示唆されているため、各遺伝子をノックアウトした状態での1細胞解析を実施して、どのような段階に関与する遺伝子なのかを明確にしていく。また、遺伝子のオントロジー解析から同様のパスウェイに存在するいくつかの遺伝子グループの存在が示唆されるため、これらの遺伝子の結合や協調作用の可能性を評価する。更に薬剤標的となりうるリン酸化酵素などのタンパク質修飾酵素については低分子化合物などを用いて機能を制御した際のEMT/METへの影響を評価し、薬剤による乳癌悪性化の制御の可能性を検討する。
コロナウイルス蔓延により当初の計画で使用予定であった試薬類の到着が遅れ、一部を次年度の計画に移行した。また国際学会等への参加を次年度以降に見送った。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
Biomolecules & Therapeutics
巻: in press. ページ: in press.
Viruses
巻: 12(6) ページ: 629
10.3390/v12060629
巻: 12 (12) ページ: 1475
10.3390/v12121475
巻: 28 ページ: 311~319
10.4062/biomolther.2019.202