研究課題
マウス全脳を出発材料にMPL-BLOTCHIP-MS法により同定した6種類の線維化αシヌクレイン受容体候補分子について発現コンストラクトを作製し、HEK293細胞にて安定発現株を作成した。同細胞の培地に単量体・線維化αSYNを曝露し、共免疫沈降法で結合を確認したところ、神経細胞に豊富に発現するSortilin (SORT1)と線維化αシヌクレインが特異的に結合する事を確認した。SortilinはVPS10P 受容体ファミリーに属するI型膜タンパク質で細胞内のエンドソーム小胞と細胞膜に存在し、その内腔側領域となる N 末端には10個の β プロペラ ドメインからなるトンネル構造を形成する VPS10P ドメインを有している。Sortilinの各ドメインを欠失した変異体を作出し線維化αシヌクレインとの会合変化を免疫沈降法で確認したところ、線維化αシヌクレインはsortilinの10ccドメインと結合することが判明した。野生型sortilin過剰発現HEK293細胞ではコントロール細胞と比べ線維化αシヌクレインの細胞内取り込みが促進されたが、100ccドメインを欠損した変異型sortilin発現細胞ではαシヌクレイン取り込みへの影響はみられなかった。さらに、sortilin 10ccドメイン配列を特異的に認識するモノクローナル抗体を作成し、細胞を同抗体でプレインキュベーションすると、線維化αシヌクレインの取り込みが抑制される事が確認出来た。共焦点レーザー顕微鏡を用いたタイムラプス観察では、細胞外の線維化αシヌクレインはsortilinと共にエンドサイトーシス機構で細胞内へと侵入し、初期エンドソームへと輸送されることが観察された。さらに、パーキンソン病剖検脳を用い、sortilinが脳幹型・皮質型Lewy小体のコア部分に存在している事を確認した。
2: おおむね順調に進展している
初年度は神経細胞膜上に局在するαSYN結合タンパク/受容体の網羅的探索を実施し6種類の候補分子を得た。この情報を下に、今年度は培養細胞を用いた共免疫沈降法によるバリデーションにて、線維化αシヌクレインとsortilinが特異的に結合し、その結合部位が10ccドメインであることまで突き詰め得る事が出来た。さらに、100ccドメイン欠損sortilinおよび100ccドメイン認識モノクローナル抗体の前処理により、線維化αシヌクレインの細胞内取り込みが抑制される事を示し、細胞外の線維化αシヌクレインのエンドサイトーシスによる取り込みに、sortilinが深く関与していることを証明する事が出来た。さらにヒト剖検脳を用い、sortilinが脳幹型・皮質型Lewy小体のコア部分に存在している事を確認する事が出来た。
エンドソームマーカー分子であるsmall Rab GTPase発現細胞を用い、sortilinと結合したαシヌクレインの細胞内輸送の詳細なタイムラプス観察を引き続き実施する。併せて、胞分画法・ショ糖密度長遠心分離法により、細胞外から取り込まれた線維化αシヌクレインのエンドソーム系への集積を定量的に観察する。また、sortilinノックアウトマウス、あるいはsortilin 10ccドメイン抗体を接種したマウスを用い、in vivoでの線維化αシヌクレインの神経細胞への取り込み、伝播現象への影響について検討を行う。これらの研究を通じて、細胞表面の受容体分子を標的とした、これまでに無いαシヌクレイン伝播抑制によるパ-キンソン病/シヌクレイノパチーの疾患修飾療法開発へと繋げたいと考えている。
コロナ禍により国内・海外への学会出張が減り、旅費を使用する機会が無かった。繰越金は次年度の研究活動に使用する。
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