研究課題/領域番号 |
20K08294
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
市川 尊文 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (30245378)
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研究分担者 |
川島 麗 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (70392389)
河村 由紀 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 消化器病態生理研究室長 (10392391)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / ムチン / T-RFLP法 |
研究実績の概要 |
本研究は、ムチンの水分保持力は腸内細菌叢によって左右されると予想し、ムチン水分保持と腸内細菌との関係性を解明することを目的とする。特に、細菌が腸内で生存する際に産生する代謝物が、宿主に発現する水分子輸送機能への働きかけを明らかにすることを目標とするものであり、昨年度までには、HIK1083ムチン産生は、抗菌性惹起に直接的に関連することを明らかにし、パネート細胞からの抗菌ペプチドは腸内環境に準じて、特定のムチン産生を促す作用がある可能性が示唆されていた。そこで、本年度は、超粘膜傷害を安定的に生じさせることができるNSAIDs誘導性粘膜傷害モデルを使用して、本課題の目的達成を試みた。 ムチン機能として、菌を排除する構造依存性の除菌という従来の考え方から、菌の増殖を抑制する「抗菌」への働きかけの有無を検証するため、その端緒実験として、腸管粘膜傷害モデルマウスの腸内容物を採取し、T-RFLP法により腸内細菌叢の検出を行った。ムチン分泌が削減されるNSAIDs(インドメタシン;IDM)投与モデルを用い、体重、摂餌量、糞便量を測定したところ、投与後に減少を示したが、ヒスタミンH2受容体拮抗薬H2RAを併用すると改善された。IDM投与群では、糞便の水分含量およびpHが変化したが、H2RA併用群では、C群レベルまで改善した。腸内細菌叢解析において、IDM投与でErysipelotrichaceaeが増加し、Clostridialesが減少したが、H2RAを併用によりどちらも回復した。これより、ムチン産生とシンクロが見られるNSAIDsによる消化管炎症では、腸内微生物の割合を変化させ、腸内環境の悪化を招くが、ムチン産生による保護を見込めるH2RAの補充により、粘膜バリアの強化を伴う腸内フローラの正常化を図ることが可能であると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腸内細菌叢解析は、膨大なデータから多面的分析をしなければならず、様々な解釈から方向性を決定する必要がある。そのため、参考文献の検索に時間を要し、当初予定していた計画より少し遅れる結果となった。しかしながら、当該年度に得られた結果は、本課題を結論づける上で最重要データであるため、研究の進行度以上に意味を持つものであるとされる。
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今後の研究の推進方策 |
糞便中のムチン量、IgA値を測定し、さらには、腸内細菌産生有機酸をHPLC法により、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、乳酸、コハク酸、ギ酸、n-吉草酸、iso-吉草酸を定量する。ピックアップされた増強有機酸を腸上皮細胞株あるいは分離性パネート細胞に添加し、培養上清中の抗菌ペプチド量を計測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
モデルマウス糞便を採取し、HPLC法により糞便有機酸分析を行うことも1つの目標としていたが、COVID-19研究の波及に伴い、本研究グループが使用しているマウス種であるBALB/cが全国的に品薄となっており、当初使用予定よりも匹数を抑えていたことが大きな理由である。本年度内において腸管内有機酸の変化を捉えることできなかったものの、当該年度に得られた腸内細菌叢組成の結果は今後の研究発展が十分に見込める結果であったと考えている。繰越金においては、すみやかに糞便有機酸分析に関わる消耗品費として執行する予定としている。
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