研究課題
2020年度の実績となる文献として2020年4月に日本循環器病学会の学術誌である「Circulation journal」にて心筋炎に対する新たな治療法を提案する研究報告を発表した。"Mechanical Circulatory Support Combined With Immunosuppression for the Treatment of Giant Cell Myocarditis - A Single-Center Experience in Japan"と題された本論文は劇症型心筋炎による心原生ショックを呈する重症心不全6症例に対して当院にて積極的に行っている機械的補助循環と免疫抑制剤の併用治療の有用性を後方視的に検討したものである。学会発表に関しては近年再び注目されつつあるいわゆる拡張相肥大型心筋症に関連した研究が2021年4月の国際心肺移植学会に一般演題として採択された。"Hypertrophic Cardiomyopathy with Left Ventricular Systolic Dysfunction: Comparison with Dilated Cardiomyopathy, and Clinical Outcome after Left Ventricular Assist Device Implantation"と題された本研究は国際的にHypertrophic Cardiomyopathy with Left Ventricular Systolic Dysfunctionと称される拡張相肥大型心筋症に対する植込型補助人工心臓治療の成績を拡張型心筋症に対する同治療の成績と比較したものである。
2: おおむね順調に進展している
2020年度の形に残る研究業績としては研究実績の概要に記載しているとおり1編の原著論文が国内循環器領域最高の学術雑誌に採択されたこと、さらには一つの研究報告が国際学会に採択されたことで本研究課題の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると評価することができる。これらの論文報告、学会発表に関しては対象が希少心筋疾患であることから国内では当施設を含む一部の限られた施設でのみ実施可能な研究であり、希少心筋疾患の新たな治療指針を示すにはという本研究課題の目的に合致した研究報告として高い評価を受けた。研究以外では現在世界でも数例の報告しかない希少心筋疾患症例の症例報告を作成中であり、各専門分野の医師からの意見も取り入れ、準備している。また本研究課題を実施するための準備として当院における補助人工心臓ならびに心臓移植治療を受けた症例のデータベース作成についてもおおむね順調に進展しており、現在は基礎データに加えて、追加の臨床データを適宜追加収集しているところである。以上のことから現在までの研究進捗状況してはおおむね順調に進展している。
研究実績の概要に示した拡張相肥大型心筋症に関する研究報告に関しては、現在すでに論文作成済みであり、発表を行った国際心肺移植学会の学術誌に投稿している。いずれは論文として発表できると考えている。現在までの進捗状況に記載した希少心筋疾患症例(成人拡張型心筋症として発症した遅発性先天代謝異常症)については症例報告論文の作成を進めるとともに今後は他に同様の疾患が従来の特発性拡張型心筋症の中に診断されずにいる可能性があるため、本疾患の診断方法の確立を進める。本研究課題の主要な疾患群として申請者がすでに2編の論文を発表している筋ジストロフィーに関しては心臓移植、補助人工心臓治療後の骨格筋筋力の変化に焦点をおいた研究を進めることとしている。これまで植込型補助人工心臓は心臓移植適応を持つ重症心不全症例に対する移植までの橋渡し治療としてのみ保険償還されていた。しかし2021年5月より心臓移植適応には関係なく、植込型補助人工心臓を心不全の最終治療として装着するDestination therapyが保険償還となった。これにより従来心臓移植適応が取得できなかったために植込型補助人工心臓治療を受けられなかった疾患群も今後は本研究課題の対象疾患となる可能性がある。例えば、骨格筋筋力低下が若年時より急速に進行するためにこれまでは心臓移植適応となりえなかったDuchenne型筋ジストロフィーや、他臓器にも病変を認めるサルコイドーシスなどは今後病状次第では植込型補助人工心臓の適応となる可能性がある。このような植込型補助人工心臓の適応拡大に伴う新たな希少心筋疾患についても今後症例データベースの確立し、臨床経過の詳細な解析を進めていきたい。
COVID-19流行に伴う、国内および国際学会の開催中止、開催形式の変更などにより、当初計上していた旅費を使用することがなかったために次年度使用額が生じた。なお、旅費にて使用しなかった予算については今回の研究実績には記載していないが、現在作成中の論文などを含めた論文作成時の必要経費として多くは使用した。
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Circulation Journal
巻: 84 ページ: 815-819
10.1253/circj.CJ-19-0847. Epub 2020 Mar 14. PMID: 32173690.