研究課題
2022年度の研究成果を文献化したものを中心に以下に示す。①:世界的にも希少な成人発症の先天代謝異常症に合併した拡張型心筋症、慢性重症心不全症例に対する治療経験を症例報告にまとめて発表した。当該症例では治療として心不全薬物治療に不応性であったため、心臓移植適応取得後に植込型左室補助人工心臓を装着し、心臓移植治療に至った。本症例報告は循環器疾患の学術雑誌として認知度の高い「European Heart Journal Case Report」に発表した(論文題名:Successful Heart Transplantation in a Patient with Adolescent-onset Dilated Cardiomyopathy Secondary to Propionic Acidemia-a case report)。②:重症心不全にしばしば合併する肺高血圧が植込型左室補助人工心臓装着後にどのような自然経過をたどるかについてをまとめた研究報告を、米国人工臓器学会の学術誌「ASAIO Journal」に発表した。これは肺高血圧を肺血管抵抗値(PVR)と拡張期圧格差(DPG)で分類し、それぞれの指標がどのように変化したかを示したもので、心筋症治療に対する補助人工心臓装着の効果を新たな視点で評価したものである(論文題名:Pulmonary Vascular Reverse Remodeling After Left Ventricular Assist Device Implantation in Patients With Pulmonary Hypertension)
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に示すように、成人発症の先天代謝異常症(プロピオン酸血症)における成人心筋症症例の報告は世界的にもまれであり、さらには心不全薬物治療にとどまら植込型左室補助人工心臓や心臓移植までを実施し、その詳細をまとめた報告は申請者が調べた限りこれまでに認めない。本報告では特に人工心臓や心臓移植手術時の患者管理についても詳細に検討しており、その点も編集者には評価されている。こちらの症例報告をもって、国内での先天代謝異常症の臨床および研究に関わる関係者からの問い合わせもいただいており、反響の大きさを実感している。上記研究実績の概要に示す、2文献に加えて2022年度にはさらに心筋症、心不全症例に合併する睡眠時無呼吸症候群と左室補助人工心臓治療との関連性との論文を発表している(Journal of Artificial Organs. 論文題名:Impact of sleep-disordered breathing on ventricular tachyarrhythmias after left ventricular assist device implantation)。睡眠時無呼吸症候群は希少心筋疾患に限った病態ではないものの、対象症例になかには希少心筋疾患が含まれており、申請者の研究テーマの一部に関連する報告である。以上より本研究課題の進捗状況に関して総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した。
研究課題の主題は希少心筋疾患を基礎疾患とす重症心不全症例の診療指針を確立することであり、昨年度までに筋ジストロフィー、ダノン病、心筋炎、拡張相肥大型心筋症、先天代謝異常症に続発する心筋症に対する研究ならびに症例報告を発表するに至った。今後の研究の進捗方策についてはこれまでと同様に心臓サルコイドーシスや、不整脈源性右室心筋症、様々な病型の筋ジストロフィーなどを対象とした観察研究や症例報告を行ってゆく。
COVID-19の世界的流行のため当初参加予定であった国内外の学会中止があり、学会参加旅費として使用できなくなったため。今後、同次年度使用額は学会参加旅費とともに論文作成費用などに使用する予定である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
J Artif Organs
巻: 25 ページ: 223-230
10.1007/s10047-021-01307-y.
ASAIO J
巻: 69 ページ: 151-158
10.1097/MAT.0000000000001739.
Eur Heart J Case Rep.
巻: 6 ページ: -
10.1093/ehjcr/ytac202.