研究課題
ドキソルビシン(DOX)は悪性リンパ腫・乳癌・肺癌等の治療に広く用いられている抗癌剤だが、不可逆的な心毒性を来すことがあるため、使用に際しては経時的な心機能評価が必要である。DOX誘発性心不全モデル動物としてラットやマウスが使われているが、論文に報告されているDOXの投与プロトコールは様々である。そこでヒトの病態を正確に反映する動物モデル確立のため、DOXの投与量・投与回数を野生型マウス(C57BL/J)を用いて検討した。まず4 mg/kg/weekで5回の腹腔内投与を行い、投与終了後4週間をおいて心エコーを行った。対照群には生食を投与した。結果、DOX群で優位な体重減少を認めたものの、全観察期間を通じて死亡個体は無く、心エコーでも心機能には異常を認めなかった。次に投与量を2倍にして(8 mg/kg/week)、同様の検討を行った。結果、全観察期間中にDOX群では20匹中7匹が死亡した。またエコー検査の結果、優位な左室壁厚減少・左室内径短縮率の低下を認めた。しかし、心臓重量のみならず肝臓・腎臓・脾臓重量/脛骨長比も生食軍に比べ優位に減少しており、ANP・BNPの心臓におけるmRNA発現レベルは生食群と同等であった(ヒトの病態では血中ANP・BNPは増加する)。これらのことは、本モデルが心臓特異的ではなく多臓器にDNA合成障害をもたらしたと考えられる。よってDOX複数回投与では、ヒトの病態を正確に反映したマウス心不全モデル確立は困難であった。文献的にはDOXを単回投与するモデルも報告されているため、今後はDOX単回投与を行う予定である。
3: やや遅れている
過去の文献報告に倣ってマウスにドキソルビシンを投与してみたが、多臓器のDNA合成障害と思われる状態となり、ヒトの病態を反映したモデル構築が難しい。
文献的にはドキソルビシン単回注射による心不全モデルも報告されているため、今後は単回投与でヒトの病態に近い心不全モデルが作製できるか検討する。
抗癌剤誘発性心筋症モデルの確立に予想外の時間を要したため、グレリンによる心筋症改善効果検討に遅れが生じた。そのためグレリン購入費の一部が、次年度使用額として残った。
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Hypertension
巻: 79 ページ: 1409-1422
10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.18114