研究課題
血清コリンエステラーゼ(ChE)活性低下を来すIgG4関連疾患(IgG4RD)の症例をしばしば経験する。本年度の研究の目的として、IgG4RDにおける血清ChE活性の意義を明らかにすることである。研究方法としては、IgG4RD 30例を対照群(健常対照、血管炎(AAV群)、シェーグレン症候群(SjS群))と比較し、臨床症候・所見、臓器病変数、各種血清学的検査、各種サイトカインなどを後方視的に解析した。研究の結果として、まずは、IgG4RD 30例のうち、低ChE活性を呈した14例の血清ChE活性(131.9±42.7 U/L)は、16例のChE正常群(328.2±61.7 U/L)や健常対照群、AAV群、SjS群と比較して有意に低かった。またIgG4RD患者において、低ChE活性群における臓器病変数(4.3±1.3)は、正常ChE活性群(1.9±1.3)よりも有意に多かった。低ChE活性群では治療開始後ChE活性の改善を認め、疾患活動性と合致した。多臓器病変を有するIgG4RDにおけるChE値は、各種サイトカイン値や血清学的炎症反応の値などの影響を受けず低値であったのに対し、AAV群のChE値は、各種サイトカイン値や血清学的炎症反応の値などの影響を有意に受けた。さらにIgG4RDのChEは、線維化マーカーDKK-1やTGF-βとの有意な相関を認めた。本年度の結論として、IgG4RDにおいて、血清ChE活性は病変広がりおよび活動性の指標として有用である可能性がある。本研究結果については、2020年度にRheumatology Advances and Practive誌に投稿し、掲載された。さらに、IgG4関連疾患の腫瘍化の検討において、悪性腫瘍の既往もしくは疾患発症後の悪性腫瘍の発症の頻度が有意に高く、さらに集積し、解析予定である。
2: おおむね順調に進展している
患者検体を用いた各種血清学的マーカー、サイトカイン測定など順調に収集・解析できており、全体の研究計画としては中間段階であるが、特に血清コリンエステラーゼの新規バイオマーカーとしての可能性などについて途中経過までを論文報告として纏めることができた。現在、IgG4関連疾患におけるコリンステラーゼの意義について、病変の組織検体によるコリンエステラーゼ染色なども施行し、解析を進めている。
IgG4関連疾患におけるコリンエステラーゼの新規バイオマーカーとしての確立を目指し、コリンエステラーゼの低下のメカニズムの解明のため、保存血清および組織検体、組織から抽出した蛋白などを用いて、コリンエステラーゼの変性・失活の可能性、コリンエステラーゼ阻害因子の存在、サイトカインプロファイルとの関連性などを解析・検索していく予定である。
コロナ禍にあり、登録患者からの検体採取が遅れていることで、部分的に各種測定系を用いた検査の施行などに至らず、また学会発表など出張も困難であったため、次年度使用額が生じた。次年度は試薬の購入や各種測定系の検査の開始、さらに分析・解析用ソフトの購入なども予定している。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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